ぶっく2

□まだ言えないこと
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「本当にお邪魔してよろしいのですか」




まだ言えないこと




お菓子よし。飲み物よし。リビングもよし。
あとは………うん。大丈夫なはずだ!
あっ!片付きすぎるより少しだらしなくしてあるほうが気を使わずにすむのかな?
いや。でもなぁ……




きれいで清潔感のあるリビングにポツンと熊のように歩き回る人影―椿佐介。
まもなく待ち人が到着するだろう時間、何度も何度も部屋を確認する

「まだかな………」

時計を見て嘆く。約束の時間までにまだ10分近くある
だが、待ち人が待ち人で「会長をお待たせさせるわけにはいきません」とかなんとか言って早くにくる可能性は多いにかんがえられる


ピーンポーン



10分前、待ち人を知らせるチャイムが響く。
急いで玄関先に行くと思った通りの客人だった。
銀色の髪、ヘアピン、なによりあの鋭い瞳



「会長、本日はお招きありがとうございます」

「ぷっ。堅いぞキリ」



誘ったのはボクから。
この前、学校の行事の備品を買いにキリとボクの二人で行った際、帰りにキリに誘われ彼の部屋にお邪魔させてもらった
そこで色々ケーキをご馳走になったり、忍者の道具を見せてもらったりつい色々お世話になってしまった
そのことやお邪魔した日にキリはいつもよりたくさん自分のことを話してくれ、案外口数が少ないヤツではないとしり、今日はもっとキリと話したいと思って誘った
もちろん後者の理由は恥ずかしくて言わないが。



「とりあえずそこら辺に座っててくれ
…えと、紅茶か珈琲どっちが好きだ?」

「あっ!では、珈琲で……」



キリは案外おしゃれで紅茶好きかなと思ったがやはり珈琲だったか……
まぁボクも珈琲派だか


「あ…あの会長。
ご両親方はどちらに」

「あぁ、まだ病院の診察をしている」

「さすが会長のご両親です!」

「え…あぁ、ありがとう?」


む。たまにキリがよくわからなくなるな
この頃ずっと思っていたが、やけにボクに甘過ぎる気がする
何をするにも「危険です!敵の脅威が!!」とかばっかりで……ていうか敵の脅威ってなんだ!




「…………」

「…………」




気まずい!
なんだキリ!この前はわりとボクに話し掛けてくれたじゃないか
なんかキョロキョロ見回してばっかりで……もしかして緊張しているのか!?
まぁこれでもボクは先輩なんだしな………

………そうか緊張か……




「キ、キリっ!!」

「っ!!はい!」

「え、とそのあの……あっ!キリは歴史は好きか!この前よい本を見つけて」

「あっ!もちろん好きです!」

「む。そうか、ちょっと待っててくれ。
そこの本棚にあるから」



「あ、会長急ぐと危ないで」

「うわあぁぁ」

「かっ会長!!!」


ボクが本を取ろうとしたらバタバタと本が降ってきた。すぐにキリはそれに反応し言うまでもなくボクに覆い被さった
またキリに助けられてしまったな


「会長、大丈夫ですか」

「あぁすまない……む、本をとりあえず片付けないとな…」

「俺も手伝います!」

「はぁ。本当にすまない」



ああ〜ボクは先輩のはずなのに……情けない!



「あの会長、これ……」

「む。アルバムか……」



確かこれはボクの子供のとき、赤ちゃんのときのものだ



「す…すみません!片付けます!」

「いや、見てもらってかまわない」



アルバム………そういえばキリはボクの取り巻く環境を知っているのだろうか


だが知っているにしても知らないにしても、ボクはそんなこと気にしてもいない
むしろそのような気を使われた方がショックだ



ボクがそう言うと彼はボクとアルバムを交互に見て、静かにページを開く
しばらくしてから、ふっと彼から笑みがこぼれた



「やはり会長は小さい時から可愛らしいんですね………」

「は、はぁ!?キ、キリ!キミ何をいきなり言い出すんだ!」

「何って…会長が可愛らしいと」

「あー!!もういいっ」



可愛いってなんだ!
ボクはどこからどう見ても正真正銘男子だ!
ま、まぁ確かにキリと比べたら体格だって……アレだが……
だからと言って可愛くなんかないっ



「……佐介」

「っ!!」

「あ!いえ、素敵な名前だと思いまして」

「あ、あぁそっちか」



驚いた……キリめ、いきなり名前を呼びよって……
よく考えれば彼には名前どころか名字でさえも呼ばれたことないもんな



「お父様、お母様どちらが名前をお付けになったんですか」

「あぁ、2人で考え、それをあの日今の父伝えたと聞いている」

「今の父?」

「!!!」




あ、ボクの血の繋がった両親がいないことをキリは知らないのか
そうかキリはそのとき生徒会にはいなかったな



「実はボクの両親は……」

「……?」

「…………いや、なんでもない」

「……会長?」



なんとなく本当のことを言う気が引けた
もちろん藤崎と双子のことを恥じているつもりも嫌悪感が生じてもいない
ただあまり人に言うべきことでもないと思う
とくにキリには……


きっとキリのことだ。そんなことを聞いてしまってはきっと気を使って家族の話しをボクにすることはなくなるだろう
もしかしたら家に来ることもなくなるかもしれない
ボクはもう少しキリと打ち明けたい
先ほども言ったがそのためにキリを誘った


だけど……



「それより例の歴史小説があったぞ
キリに貸してやる」

「ありがとうございます、会長」



もう少し



「では、会長にはこの図鑑を」

「ぷっ。なんで図鑑なんだ」

「この前俺ん家に来たとき会長が昔よく図鑑を見たとおっしゃったので」

「子供の頃の話だ!キリはボクが幾つに見えるんだ」

「す、すみません」

「まぁよい、ではせっかくだし2人で観ないか?」



もう少しだけ彼が先輩や主君としてではなくボク個人として見てくれるようになったら
そのときは



「はい!!」



そのときはお互いのことを少しずつ話していけたらな―――……










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