捧げモノ

□めばえ
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キリ椿







「おいおい、こんなもんかよ」


「…うるさい………お、愚かな者」



乾いた廃墟にかすれた声が響く。
縛られた腕が痺れだす
なんで自分がこんな目にあっているんだと考えたがもうそんなことはどうでもよかった
ただ意識が朦朧とする中、1人の仲間の顔が出てくる



「キリ……」


「おほっ!この女、こんな目にあってんのに他の男の名前呼んでんぞ」


「いいぜ気に入った。コイツをぐちゃぐちゃにしてやりてぇ」



サァっと血が下がるのを感じた
そんなボクの心境とは逆に奴らはニヤリと嘲笑う
イヤだ触るな!触るな!
叫ぶように声を出したいがあまりのことに声が出ない

奴らは近づき、制服のボタンを乱雑に開ける


「お〜可愛いブラ着けてんじゃん」


「色も白っ!!」



ギィと唇を噛む。
なによりも自分が男ではなく女だと再認識した
力は結構ある方だと思っていた、しかしそれはあくまで女の中ではで、奴らには少しも力及ばなかった


もしボクが男だったら……



「その顔たまんねぇ」


「あっ!き、キサマ何を」


「味わってやるよ、そのキリとか言う男の前に」



男が下着に触れた
やめろ!触るな!
やはり声にはならない。
その布が剥がされようとされ、ボクはもうダメだと思って目を閉じた
怖い、怖い、怖い
そんなときでもやはりあの男の顔が脳裏に浮かぶ


(助けてキリっ!!!)



「つか本当にやわらけぇな……」


「あっ……ん……ふぅ!んんっ」


「ブラごしでもそんな声出んのかよ
じゃあ次はその中身を拝見しようかな」


「!!」



もうダメだ………すまないキリ……














あれ……?
何もおきない?


異変に気付きそぉっと目を開けた
そこには先ほどまで脳裏にいた人物




「……キリ……?」




キリは少し笑ってボクを抱き締めた
ギュっと暖かい。キリの匂いだ



少し経つとキリはボクを離して、カーディガンを脱いでボクの胸元に掛けた
そうしてからやっとボクは今の自分の格好を思い出した
カァァと顔に熱が溜まる


そんなボクとは裏腹にキリは奴らを睨み付ける



「本当は殺してやりたいが、今だったら一発殴って警察に行くだけで許してやる」



ギロリと黒光りする目はボクの知らないもので少し恐怖を感じた
奴らは脂汗をかきながら「すみませんでした、すみませんでした」と繰り返す

その様子を見てボクは助かったんだとホッとした





◆◇◆◇◆◇




無事に警察にも届けるとキリはジッとボクを見つめてきた



「会長、本当に大丈夫なんですか」


「ん?あぁ。………でもアレだな。ボクが男だったらキリに迷惑掛けないかもしれないのに……」



自分で言うのもなんだが結構マジメな話だと思う。
だがキリは、なんだと言わんばかりに微笑んだ



「会長が男でも女でも関係ありません
それに俺は会長を守りたいんです


……え?あの会長、な、泣いて」


「うるさいっ!こっち見るな」



キリの言葉があまりにも真っ直ぐで視界が歪んできた
キリに触れられた部分があまりにも熱い
それに何だか胸の奥がじんわりと暖かい
どうやらボクはどうかしてしまったらしい
頭でも打ったに違いない


それでなきゃおかしい
だってこんなにキリを想うだけで胸が締め付けられるなんて




これではまるで―――……








めばえ










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