ぶっく
□分かっていても
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「写真撮らねーか?
とーちゃんたちに魅せてやりたいんだ」
帰り際に藤崎が言った
恥ずかしさからか顔が少し赤く染まっている
秋の肌寒い風に思わず身ぶるいをしながら椿は、にっと口角をあげた
「あぁ。そうだな」
しんとした薄暗い夜空に吸い込まれるような声だった
もう、サラリーマンは帰る時間だろう
「んーじゃあ、とっとと撮るか」
「「…………」」
しばらく2人に沈黙が続いた
「なぁ椿ぃ。
もし、もしな、
最初はガミガミ細かいヤツで
正直、関わりたくないヤツがいたとするよ、
でも、気持ちとは正反対にいつの間にか面倒事に首つっこんじまって、悔しいけど憎めないヤツにかわっちまって
そんで、どんどん俺の中に入りこんできて
いつからか分からないけど惚れちまって
そんで、そんで…」
藤崎は眉をよせ、下を向きながら
すがるような声を出した
それをかき消すような目で椿は藤崎を見つめる
「藤崎、僕は正直キミが嫌いだ
ヘラヘラしているのに、いつも周りに仲間がいて
そして、そして
無駄で僕の中に入り、僕の心を掻き乱した…」
薄っすら瞳が潤んでみえるのは気のせいだろうかー…
「っ椿…」
「しかしっ!…しかし、どこか心では
僕の兄がキミでよかったと思い
それを誇らしいとも思っているんだ」
まっすぐ藤崎を見つめる椿は
涙は乾き、睫毛は相変わらずリンとしている
「あぁ。俺もだー…」
今にも消えそうなかすれた声で言い返した
「…写真撮るか」
「……あぁ。」
想いに気づいてなお、一歩踏み出せないのは
きっと、お互いがお互いを失うのが怖いからだろうか…
薄暗い街には点々と電灯がつき始めた