小説
□もうすぐ冬だね
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12月も間近のある日。
漆くんと俺は鍋の材料を買いに近所のスーパーへと向かっていた。
「寒いねー…」
はぁ、と白い息を吐きながら言うと
「…風邪ひくなよ?もうすぐ冬なんだから」
と漆くん。
大丈夫、バカは風邪ひかないから。
…俺、いま自分をバカって言った?
「…じゃあ風邪予防にみかん買ってね」
爪が黄色くなるまで食べてやる。
「それでお前が風邪ひかないならいくらでも買ってやるよ」
…漆くんは変態である。
ここはナレーションぽく言うよ
だってバカでしょ
みかんごときにそんな。
「うんうん、ひかないからアレ…小さいみかん買ってね。袋が薄くて甘いやつ。多少高いやつだとなお風邪ひかないな」
甘酸っぱさがたまんないんだよね
俺は大きいみかんより小さいみかんのほうが好きだ。皮が薄くてみずみずしい気がする。
「おう」
…本当、この兄は弟の言うこと何でも聞いちゃうんだから。
便利だなぁ
「そっか、漆くんだいすき」
ポーカーフェイス。
照れてる、絶対。
俺はこんなふうにして幼少の頃からブラコンの兄の使い方を学んだ。
まあつまり。扱いやすいわけで。
「…鍋、何を入れたい?」
漆くんは確か白菜が好きだったな…
俺は肉団子と湯豆腐が好き。
「白菜と肉団子と湯豆腐」
こんなふうにぽつぽつと会話しながらスーパーに着く。
今日は白菜が安いらしい。うん、ラッキー。
ネギと白菜、豆腐、安かった納豆、だしをとるための昆布、なくなりかけていたぽん酢、肉団子、しらたき、明日の朝ごはんの魚の干物、俺が目についたお菓子をかごに投げ入れてレジへ。
スーパーに入ってから会話はしていない。それでも何だか、漆くんがいつもより近いように感じる。
物理的な距離は変わらないけれど、近い。
スーパーを出てすぐに、ひゅうっと冷たい風。ここで口を開く。
「…寒いね」
「中はあったかかったからな」
スーパーの中の丁度いい温度が恋しい。ぶるっ、と身を縮めて、歩く。