図書館戦争

□気持ち、さ迷う昼
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郁『笠原、手塚ペアより堂上教官へ、閲覧室東トイレ付近にて要注意利用者を発見。職質かけます!』
堂上『気をつけろ、俺達もすぐにそっちに向かう』
郁『同じ轍は踏みませんっ!』

郁はやや強引に通信を切ると、少し伏せがちな顔を手塚に向けた。
手塚『・・・何だ』
そう声をかけられて、更に言いづらそうにする。
郁『あんなことには絶対しないから。あたし頼りないけど、信じて』
郁の頭の中にはいつしかの失敗が浮かんでいた。自分の軽率さでバディだった堂上に怪我をさせ、頬をぶたれた時。あんなことには絶対しない。
手塚『俺は、笠原を信じてないわけじゃないぞ』
郁は驚いて手塚を見たが、ぶっきらぼうに前を見たまま動かない。・・・くそ、無駄に嬉しい。
郁『・・・手塚ぁ、あんたって』
手塚『調子に乗るな、頼りにはしてない。早く行くぞ。職質はお前がかけろ』
郁『・・・あんたって果てしなくムカつくわね』
手塚は返事をせずに、郁の背中を軽く押した。郁もそれ以上は何も言わずに歩きだす。要注意利用者はすぐ目の前だ。


郁『すみません、少しお話を伺ってもよろしいですか?』
?『な、ななな何だよっ何もしてないだろっ!』
笠原『貸出手続きを済ませていない図書をお持ちですよね?』
要注意利用者は目を剥いて郁を睨む。
?『も、持ってない!』
できるだけ慎重に、相手を刺激するな。堂上がよく言っていた。・・・刺激しないで追い詰めるって、無理だと思います、教官。
笠原『では両手を上げてみていただけますか』
要注意利用者は40代前後と見られる男性で、コートの中に隠しているのは、多分人気女優のヌード写真集だ。
?『い、嫌だぁ、俺はこれを持ち帰るんだっ』
そういうなり男は男子トイレに駆け込む。迷わず郁は追いかけたが、災難にもトイレは使用中だ。ええい、構うもんか。そう自分に言い聞かせて、男に詰め寄る。
笠原『閲覧図書の無断持ち出しは窃盗罪に値します。直ちに返却していただけますか』
今なら未遂で済みます、そう付け加えると男はうなだれた。そして、写真集をコートから出すと、郁に差し出した。郁が近付いた、その瞬間。
郁『ーーッ?!』
男が反撃に出るのは想定していた、が、使用中トイレの中に仲間が隠れている危険性は想定できていなかった。あっと言う間に五人の男に囲まれてしまう。考えろ私、こんな時教官ならどうするか。考えろ・・・!
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