短編
□風邪
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「ちゃんと温かくしてますか?食事は少しでもとってくださいよ!」
「はいはい、おめーは俺の母ちゃんか。」
受話器越しに神楽が「銀ちゃん大丈夫アルか?」と騒いでいる声が聞こえる。
銀時は一見丈夫そうではあるが、意外と風邪をひく。
季節の変わり目や、急に冷え込んだりした時などによく体調を崩してしまう。
暖かい日が続くと思ったら次の日にはいきなり寒くなる、気温の寒暖差が激しい今年の冬も案の定熱を出して寝込むことになってしまった。
看病すると騒いでいた神楽を定春ごと新八に無理やり預け、新八も暫く実家にいろと追い出した。
何故そんなことをするのかというと、二人に風邪を移さないようにするためもあるが、本当のところはこれ以上病状を悪化させたくないからである。
神楽に看病させたらこちらの気が休まることが無いのは目に見えている。
いくらか常識を持ち合わせている新八ならばまだマシかもしれないが、彼に看病を頼めばもれなくお妙がついて来る。
怪我の療養のために志村家を訪れたとき散々死に掛けた銀時にとって、あの姉弟に世話になるというのはけっこうなトラウマなのである。
銀時の言葉に従い、渋々実家に戻った新八だが、やはり心配になり電話をかけてきたのだ。
「銀さん本当に一人で大丈夫なんですか?」
「あ゛ー、ガキじゃねェんだから平気平気。神楽と定春頼んだぞー。」
「あ、ちょっと銀さ…」
新八の言葉を最後まで聞かずに受話器を置いた。
「ゲホッ…、気ィ使ってくれてんなら電話かけてくんなよなー…。」
正直喉が痛くて話すのも辛いのだ。
咳も止まらないしすっかり声が枯れてしまっている。
ふらふらする身体を叱咤してなんとか寝床まで戻った。
「げ…38度4分…。」
どうりで寒気がする訳だ。
布団にくるまり、なるべく体を冷やさないようにしていても寒い。
新八には平気と言ったが、食欲が無いので何も食べていない。
したがって薬を飲むことも出来ない。
腕も足も動かすのが億劫で、ぼーっとする頭で天井を仰ぐ。
視界もぼんやりしていて果たして自分が夢の中にいるのか現実の世界にいるのか分からない。
何時もは賑やかな万事屋は静まりかえっていて、家の中には一人しかいないというのがよく分かる。
―そういや昔からよく熱だしてたな…。
次第に意識が遠のいていく。
俺が寝込んだらなんか先生すげー慌てて、小太郎や晋助に落ち着けって言われてて、
でもあいつらも十分慌ててたな…
おぼろげな記憶を辿っていきながら眠りに落ちた。