短編

□出会い
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「剣の本当の使い方を知りたきゃ付いて来るといい。」


そう言って背中を向けて歩き出した男の後を、その少年は2本の刀を両手で抱え小走りで追いかけて行った。
しかし、決して男の傍に行こうとはしない。
一定の距離を保ったままである。

ふと男は立ち止まった。
少年も歩みを止める。
何をする気だと訝しげな表情で彼の大きな背中を見つめた。
すると男はしゃがみこみ、顔だけ後ろの少年に向けてふわりと微笑んだ。


「疲れているでしょう?さあ、背中に乗って。私の家までおぶっていきますよ。」


「……ぇ…?」


少年は男の言ったことがすぐには理解できず、きょとんとした顔で首を傾げた。

気付いた時からたった独りで死体から食べ物を剥ぎ取って暮らしてきた少年にとって、大人は汚い言葉と暴力を浴びせ、自分を傷つける存在でしかない。
なのであのように優しい笑顔でかけられた言葉に上手く反応できなかったのだ。

男は少年が固まったままでいるのを見て、苦笑しながら立ち上がり彼へと近づいた。
少年はびくりと肩を動かし少しずつ後退りする。
男はゆっくりと、しかし確実に距離を詰めていく。


「大丈夫ですよ。」


穏やかな笑みを絶やさずに少年が警戒を解くのを待つ。


「君が恐れるようなことはなにもありません。」


「…うそだ。」


少年は言葉らしい言葉を初めて発し、男をキッと睨み付ける。
その紅い瞳には敵対心と怯えが含まれている。


「何故嘘だと思うのですか?」


男は静かに、優しく問いかけた。


「『人間』はみんなおれのことが嫌いなんだ。
みんなおれのことを殴ったり蹴ったりする。…おれが『鬼』だから。」


だから近づいたらいけない。

少年は淡々と答える。
まるで自分が本当に『鬼』であるかのような言い方。


―ああ、この子はまだこんなにも幼いのに、辛いことばかりしか知らないのだ。


男は少年の言葉を悲しげな表情で黙って聞いていた。


―この子に人並みの、いや、それ以上の幸せを与えなければ。

刀を頼りにたった独りで生きてきた儚い銀色に。


少年を初めて見たときから抱いてきた思いが更に強くなった。
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