novela
□落ちていく
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__ここは夢の中?
霞む視界、黒く塗りつぶされたような世界。
そして、浮遊感。
士郎は意識を覚醒させ、周りを見渡す。
どこをみても黒、黒、黒。
音もない世界。何もない世界。
そんなところで士郎は落ち続けている。
落ちる、堕ちる。
この世界に果てなどあるのだろうか。
士郎は心の中でそっと呟き、目を閉じた。
頭の中で流れ出す数々の記憶。
弟の笑顔、幸せだったあの日々。
自分の体から零れだすように記憶が流れ、そして去っていく。
体は麻痺していて動かない。
士郎が出来るのは堕ちることだけ、ただそれだけ。
触れば崩れてしまいそうな儚く、脆い記憶は黒に呑まれ消えていく。
弟の笑顔。差し出された手。
わかっている。
全ては幻想だということを。
__それでも良い。
士郎は数々の記憶を忘れないよう、雪のような白い腕で優しく包んだ。
__次、会えたら...必ずごめんって言うんだ。
そこで初めて士郎は気づく。
この世界に果てはないのだと。
この世界の深さは自分の罪の深さなのだと。
ゴッ....!!
鈍い音がした。
頭に刺さるような衝撃が走り、士郎の視界が歪む。
__ははっ...参ったな。アツヤに逢えないや
__僕がいくのは地獄だもんね。