book short-T
□偶然の集まりでしかない、今の関係
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『あ、また』
「……どーもッス」
帽子をかぶったまま少し頭を下げる男の子
大きな大会の会場でいつも出会う
こんな風に、自動販売機の前で
『いつものことながら、偶然、だね……?』
「……そーッスね」
そう、偶然
会場内には自動販売機至る所に設置されているというのに、私と彼はいつも顔を合わせるハメになる
私はこの帽子の少年の名前すら知らないというのに
少年の纏うジャージから、かろうじて彼が青春学園の生徒さんであることを認識しているぐらいだ
「……アンタ、またいつものでいいの?」
『あ、うん、よろしくです』
私の返事を聞くなり、少年は迷わずボタンを押す
ゴトン、という音と共に転がり落ちてきたのは黒い缶
『あとがとう』
「アンタも好きだね、それ」
私のブラックコーヒーを指さしながら、少年が呆れたように笑う
『お互い様でしょ、少年』
少年の手の炭酸飲料見て笑えば、少年もつられて笑う
しばらくそうしていると、少年は踵を返した
「じゃぁね」
『うん、試合頑張って』
名前も知らない少年は、私の言葉に背中越しに手を振り返す
少年との他人以上の微妙なこの関係を、私は心のどこかで楽しんでいた
偶然の集まりでしかない、今の関係
((私が一歩踏み出せば、この関係は変わるだろうか))