book short-T
□隣りを狙ってもいいかな?
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廊下を早歩きしながらテニスコートへと向かう
日直の仕事がなかなか片付かず、部活に遅れてしまっているのだ
『早くしなくちゃ……ってあれ?』
何気なく視界に入ってきたのは、腕を枕にしながら教室の机に突っ伏して寝ている日吉君の姿
私がマネージャーを務める男子テニス部の2年生レギュラーだ
『……珍しい』
つり目気味な目が閉じられていて、いつもよりあどけない顔
最近の練習がハードだからだろう、よっぽど疲れている様子
『……いつもこんな顔してたら勘違いされないのになぁ』
しかめっ面してることが多いせいなのか、後輩などに必要以上に怖がられている節がある日吉君
本当は誰よりも優しい人なのに――
『不器用な分、色々損してるんだよ?』
そこも含めて、私は日吉君が好きなんだけどね
本人が寝ているのをいいことに、独り言を呟いてみる
「――名字……」
突如私を呼ぶ声は、紛れもなく日吉君のもので――
起きていたのかと日吉君を見下ろすと、彼はまだ規則正しい寝息を立てていた
どうやら寝言だったようだ
……寝言? 今日吉君寝言で私を呼んだ!?
思わずその場から逃げ出すように教室を去る
バクバクと心臓がうるさい
当分は収まらないだろう
部活に遅れて部長に怒られるのは、どうやら決定事項になった
隣を狙ってもいいかな?
((君の寝言に、期待させて))