book short-T
□冷たい世界とあなたのぬくもり
1ページ/1ページ
『……寒』
朝目覚めると、私はその寒さに思わず声を漏らした
最近急に気温が低くなってきた
それが原因なのか、学校では風邪がはやっている
私がマネージャーをしている男子テニス部も然りだ
そんな事情もあってか、最近は朝練がない
にも関わらず、朝練がある日と同じ時間に目覚めてしまった
二年弱もマネージャーを務めてきたのだ、これは習慣化されている
『……朝練ないから会えなくて寂しいとか、私はどこぞの乙女だ』
情けない思いと同時に、どうせどこかで待っているんだろうなという推測が脳裏をかすめる
何しろ、ラブロマンスが好きな恥ずかしい恋人だから
そんなことを思いながら、何ともなしに窓の外を眺める
『――え、ウソ、忍足先輩!?』
何気なく見た窓の外には、寒そうに縮こまりながら向かいの家の塀に寄り掛かっている、先輩でもある恋人の姿が見えた
急いで身支度を調え、鞄を持ち外に出ると、やはり先程と同じ体勢をした忍足先輩がいた
「おはようさん、名前。今日はえらい寒いなぁ」
ヘラヘラと笑いながら片手を此方に上げる
『何バカなことしてるんですか、こんな所で待ってる必要ないでしょう?』
「せやかて、はよ名前に会いたかったんやもん、しゃーないやん?」
『学校に行けばいくらでも会えます』
「うん。でもな、朝一番に名前におはようて言いたかったんや」
堪忍な?
そう言って片手で拝むような仕草をする忍足先輩
『……ほんっとバカじゃないですか、風邪でもひいたらどうするんです?』
バカでも風邪はひくんですよ
思わず頭に浮かんだことを率直に言うと、先輩は心底嬉しそうな顔をした
「……心配してくれるん?」
『朝も早くから人ん家の前で待たれて、そのうえ風邪でもひかれたら寝覚めが悪いだけですよ』
何だか私のせいで風邪ひいたみたいじゃないですか
精一杯の照れ隠しは、顔さえ赤くなければ完璧だろう
私の下手な照れ隠しは、当然の如く忍足先輩にはばれていて……
「……ほんま、可愛すぎるやろ、自分」
嬉しそうなその顔をうっすらと赤く染めた先輩は、私を軽く抱きしめた
今日は朝練がないのだ、少しぐらい遅めに登校しても構わない
朝練に遅れる心配のない私たちは、しばらくの間そうしていた
冷たい世界とあなたのぬくもり
((仕方がないから、風邪ひいても看病してあげます))