book short-T


□優しい嘘を吐きませう
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『別れてください』


あぁどうしよう、言ってしまった

土方さんは今どんな顔してるんだろう


「……名前?」


驚いた、そして少し震えた声

鬼の副長と恐れられる普段の様子からは、大きくかけ離れている

土方さんにそんな声を出させているのは私

その事実に、どうしようもなく泣きたくなる


「お前冗談……」

『冗談じゃありません』


さぁ、酷い女にならなきゃ

そう思って土方さんの言葉を遮る

言ったところで、やっと土方さんの顔を直視

ザックリと、確実に傷ついた顔


ごめんなさい……


心の中で呟いた言葉は、貴方には届かないだろうけど


「名前……」


私の名を呼ばないで、決意した心が揺らぐから

ずっと、ずっと考えて出した答えが崩れるから


『勝手なのは分かってます』


でも、もう無理です

そう言うと、土方さんが息を呑んだ


嗚呼、これで私は彼に嫌われたかしら?

私の前では、本当の笑顔を見せなくなった彼に


どうして気づいてしまったんだろう

土方さんが私の前で笑わなくなったことに


さて、早くこの場を離れなきゃ

堪えていた涙が溢れてしまう


『さようなら』


最後だからこそ、せめて、


しい嘘を吐きませう

((ありがとう、大好きでした))
 


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