book short-T
□吐息の囚人
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ひゅおおおと音を立てながら、北風は私の隣を通り過ぎていく
時折私に直撃しては、マフラーの隙間から滑り込んでくる
『さっむ!』
地球温暖化がどうこうとか騒いでるけど、多分大丈夫だよ、うん
だってこんなに寒いんだもの
『あれ……?』
珍しい人を見つければ、思わず声を上げてしまう
あの人、滅多に池袋には寄りつかないのに
まぁ折角見つけたんだし、声でもかけようか
そんな風に一瞬考えた
でも、次の瞬間私は動けなくなってしまう
まるで、影を地面に縫い付けられてしまったみたいに
『臨也……さん?』
あったかそうなファーのついた黒衣を纏った臨也さんが、何やら物寂しげな顔でため息をついたのだ
本当に、寂しそうな、哀しい眼をして
吐き出された白い息は、彼が纏う黒と見事なコントラストを描いて
この雑踏の中、彼だけが絵画みたいだ
しばらく立ち尽くしていたら、いつの間にか臨也さんは何処かに消えていて
『……あんな臨也さん、初めて見たかも』
いつも自信ありげに薄笑いを浮かべているのに
どうして今日はあんな顔をしてたんだろう
あんな、哀しそうな顔を――
その日から、臨也さんのあの顔が忘れられない
頭から離れてくれない
私は毎日、臨也さんのことを考えているんじゃなかろうか
そんな、そんな私はきっと――
吐息の囚人
((貴方に心を掴まれたまま))