book short-T


□甘い甘い昔話
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風に靡く金の髪

陶磁器のように白く滑らかな肌

形の良い唇は、真っ赤に熟れた林檎のごとく


絵本から抜け出してきた王子様

それが、私が彼に抱いた第一印象だった


「何ソレ、俺名前にそんな風に思われてたの?」

『そ、そんな風って、アンタねぇ……』


珍しく二人のオフの日が重なった

それじゃあ部屋呑みしよう、なんて話になって

何が転じてこうなったのか、出会った頃が話題にあがった


俺の第一印象どんなだった?


少し酔いの回った顔でアイツがそう聞いたから、私は正直に答えた

答えたら、この反応

仕方ないじゃない、本当なんだから


「王子様みたいって、俺ホントに王子なんだけど」

『分かってるわよ、でもあの時は知らなかったもん』


何だかからかわれてる、というか呆れられてるみたいで恥ずかしい

今、私の顔が赤いのは、きっとアルコールのせいだけじゃないだろう


『ベ、ベルはどうだったのよ』


何となく恥ずかしくて、不自然に話題を変える

すると、ベルはチェシャ猫のように悪戯っぽく笑う


『な、何?』

「んー、俺も名前のこと姫みたいって思ったよ」

『はぁ?』


予想外の台詞に素っ頓狂な声を上げた私を、ベルは構わず抱き寄せる


「このジャッポーネ特有の黒髪とか、髪と同じ夜の色した瞳とか?」


そう言いながら、私の髪を弄ぶ


「写真で見た、ジャッポーネの昔の姫様みたいって」

『……何よ、それ。私と似たようなもんじゃない』


ていうか、私はそんなに綺麗じゃないし

恥ずかしいのと照れくさいのがごちゃ混ぜになって、思わず早口に言い返す

私の言葉を受けたベルは、私の首筋に顔を埋め、軽くついばんだ


『あっ……』


甘い刺激に、思わず声が漏れる


「王子にとっては、すんげぇ綺麗に見えたんだよ」


あの時も、今も、多分これからも

耳元で囁かれる甘い声は、どんな酒よりも私を酔わせる

堪らなくなった私は、ベルの唇に己のそれを強引に押しつけた


い甘い昔話

((昔からずっと、貴方の声に指に全てに酔いしれて))
 


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