book short-T


□はんぶんこ
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「全く、因幡さんってば人使い荒いんだからー」

『まぁまぁ圭君、落ち着いて』


隣でぷりぷりと怒る圭君を宥めながら、事務所までの道を行く


「何でこの寒い中買い物なんかいかせるかな」

『仕方ないよ、だって新発売シャンプーだもん』


こうして喋っている間も、北風は容赦などしてくれない

事務所を出る際、お互い完全防寒したつもりだったが甘かった

予想以上に冷たい風は、私と圭君の間に沈黙を誘う

さっきまで洋君に対する愚痴を零していた圭君も、とうとう黙ってしまった

何となく気まずい沈黙を破る策はないかと辺りを見渡せば、私の目に24時間営業の看板が飛び込んで来た


『圭君、ちょっと待ってて!』

「え、ちょ、名前さ……!」


圭君に一声かけるや否や、私は自動ドアめがけて猛ダッシュ

幸いレジに列はなく、目当てのものはすぐに手に入った

……個数は、計算違いだけれど


『お待たせ圭君!』

「ちょっと名前さん何処行って……んぐ!?」


文句を言われる前に、圭君の口を塞ぐ

今し方購入した、ほっかほかの肉まんで


「あっ、つ! え、名前さんこれ……」

『見ての通り肉まん。圭君あまりにも寒そうだったから』

「あ、りがとうございます」


そう言いながら、圭君は私の手元に目をやった

そこに何も持っていないことに疑問を持ったのだろう、圭君が私に尋ねる


「あの、名前さん自分の分は……?」

『あぁ、別にいいよ。それがラスト1個だったし』

「え」


驚いた顔の後に続くのは謝罪の言葉

すみません、だなんて、圭君は優しいんだから


「あの、食べかけで悪いんですけど……これ、はんぶんこしませんか?」


申し訳なさそうに、それでいて真っ赤になりながら、圭君が申し出てくれる

今度は私が驚いた顔をしただろう

そんな私の顔を見てあたふたしながらも、圭君はなお勧めてくれる


『じゃぁ、お言葉に甘えようかな』


圭君に負けないくらい赤くなってそう告げると、圭君はいつになく嬉しそうな顔をした


んぶんこ

((君の言葉だけで、私の心はぽかぽかです))
 


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