book short-T


□警察失格
1ページ/1ページ



『梶井……これはまた、派手に爆発させたな』


黒い煙と焼けた血肉の匂い

人の声――悲鳴、怒号、命乞い……

そんな混沌(カオス)を背景に、梶井は――笑っていた


「あァ〜、これはこれは名字警部補。観てよこれ、素晴らしい実験だとは思わないかい?」

『巫山戯るな!』


"素晴らしい"だと?

ただの地獄絵図にしか見えない丸善爆発(これ)が?



「ん〜? 名字け・い・ぶ・ほ・さん? この素晴らしさが解らないの? この不可逆なる『死』が!」


梶井は恍惚としている

何故だろうか

私は、混沌を背景に恍惚を浮かべる梶井を、美しいと思ってしまった

混沌――地獄絵図でしかないそれは、命の喪失だというのに


「ねぇ、名字警部補。『死ぬ』って、何?」


梶井は言った


『何だと?』

「だからぁ、『死ぬ』って、何?」

『……何故それを私に問う』

「実験しても、解らなかったからさ。実験の後には考察が必要だろう? だから名字警部補と議論しようと思ってね。"議論"。まさに学術的なアプローチだとは思わないかい?」


無能な莫迦と議論する気にはなれないが、あるいは君とならしてもいい

梶井は舞台俳優のように言った


『お前は……私とお前の立場が解って言っているのか』

「勿論。君は警察で、僕はポートマフィアだろう? しかしね、名前。僕は君と議論がしたいのさ」

『――っ!』


梶井お得意の学術的な興味なのか

相容れぬ立場であるというのに、梶井が私に意見を求める理由が解らない

解らない

解らない、なのにこんなに嬉しいだなんて――!!


間違いなく、私は、

察失格

((恋しい檸檬爆弾魔に、緩やかにいま墜ちてゆく))
 


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ