トキヤ2

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2.

ひょんなことから帰ってきてしまった、私の人生から切り離しかけていた幼なじみ。
幼い頃から止まることを知らなかった彼の口は、数年の歳月を経て更に止まらなくなっていた。


音也は、とにかくうるさい。
何かぴんとくることがあれば、こちらの都合などお構いなしで話を振ってくる。
朝も昼も夜も、休み時間も放課後も、食事中でも入浴中でも、時間と場所を考えない。
教室にいれば廊下から大声で呼ばれ、中庭を歩けば二階から大手を振られ、たまに学食に行けば何食わぬ顔で隣に座られる。
耳が痛くなるまでしつこく話しかけられ渋々相手をしてみれば、そこに待つのは非常にどうでもいい事柄ばかり。
相手をするだけ時間の無駄だと無視してみても、全身で呼びかけられて最終的には振り向かざるを得なくなる。
いっそのこと脅かしの一つでもして黙らせてしまおうと席を立てば、遊んでもらえるものと勘違いした目を向けられる。
きらきら輝くその目に捕まってしまったら一貫の終わり。ついに音也のペースに飲まれ、何もできなくなってしまう。
そんな時はしょうがない。その日は早々に腹をくくり、やりたかったことを後回しにする他ない。


音也と一緒にいて気付いたことがある。
それは、音也の周りにはいつも自然と人が集まってくるということ。
男子も女子も教師ですらも、音也の姿を見つけると輪に加わって心底楽しそうに笑う。
噂しか聞いたことがなかった聖川家の御曹司も、Sクラスにいてもおかしくない実力を持つ四ノ宮さんも、音也が連れてくるから顔見知り程度になった。
音也の方も、いつの間に仲良くなったのか私のクラスメイトのレンや翔とも打ち解けていたから驚いた。
知った顔も知らない顔も巻き込んで、音也はいつも人の輪の中心で笑った。
始めは戸惑った大人数の集まりも、五回十回と数を重ねるうちに少しずつ違和感がなくなっていく。
音也はそんな風にして、冬の間に固く凍りついてしまったような私の世界を、穏やかな日差しで溶かしていった。


流されてはいけないと思いつつも、知らず知らずのうちに音也のわがままや甘えを受け入れかけている自分を知る。
たまには優しくしてやろうかとも思うけれど、そうしてしまえないのが我が身を置いたこの環境。
我を忘れて笑いそうになる度に、厳しく心を律して考えを改める。
将来手にしたい世界がどのようなものであるのか、その為に自分がここで成すべきことは何か。
そう問う度に、心の温度がすっと下がり、落ち着いた答えを出せた。

音也色に染まってしまうことがまるで命の果てのであるように禁じて、私はどうにかこの学園に来た目的を見据え自己を保つ。
そうでもしないと、音也の強大な力に簡単に押し流されてしまう。
傍目から見ても分かるくらいにつれない態度を装い、時に隠れて慈しみ、時には憎しみに近い気持ちを抱いて、私は春の日を過ごしていた。





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