トキヤ2

□13
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13.


君は今から自由に歩けないものとする。
どこへ行くにも不安定な世界で制限をつけられ、僕のいいなりになった君は、今回は珍しく鬼の役。
けれど調子に乗って好き勝手に振舞われたら困るから、ちょっと意地悪に鬼がなかなか勝てない遊びをしよう。


君は僕の手によって視覚を奪われた赤鬼。
右も左も見えず、途方に暮れて立ちつくすことしかできない。
それを導く天のしるべは、ふいに聞かせる気まぐれな音のみ。

ほら。怖くないから、最初の一歩を踏み出してごらん。
そう、上手。じゃあ同じように、今度は反対の足を出して。
怖がらないで。そこには何もないから大丈夫。
うん、上手だね。
それじゃあ一度、練習してみよう。
そのままゆっくり両手を持ち上げて、地面と平行と思う位置で止めて。
そうしたら次は、手の平を内側にして、指先から順に丸めていくんだ。
指、手首、肘も折って折って、目の前の空気を抱きしめるように。
はい、よくできました。鬼の君はそうやって、逃げる僕を捕まえるんだよ。
でも今のは練習だから、いくら腕を伸ばしても、手が届くところに僕はいませんでした。
腕の中に本物を抱きたい?
なら頑張って、僕の後を追っておいで。
あっちこっちから音を差し出して、君を招いてあげるから。


きらきらつぶらな目を覆った目隠しの布は、硬く結んだからほどけてしまう心配はない。
さあ、そのままうまく歩いて、僕のところまで来てごらん。
この遊びを終わらせる方法はただひとつ。
さっき教えた柔らかな抱き方で、逃げ惑う僕を捕まえること。

それがいかに困難か、言われなくても分かってる。
でもいいんだ。どんなにもてあそんでも怒らないし、わがままには何でも付き合ってくれるのが、僕の知ってる音也なんだから。
だからこうして気が済むまで、のんびり翻弄してもいい。
よたよた歩きの音也がぶつかったり転んだりする様を、絶対に捕まることのない高見から、飽きるまで眺めていよう。




でもね、大丈夫、安心して。
その時も、きっとそう長くはない。
この楽しい時間には、もうじき終わりがやってくるだろう。
だからそれまでの間。遊びが終わってしまうその時まで、僕のことを考えて。
僕のことだけ考えて、振り回されていてほしい。





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