音也2

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1.

俺には、好きなものがいっぱいある。
ほんとの親とか兄弟はいないけど、施設の先生や仲間たち、学校の友達、先輩後輩、みんなのことがすっごい好き。
「ご両親がいないなんて可哀想にね」なんて訳知り顔で言ってくる大人もいないわけじゃなかったけど、別にそんなことなかったと思う。
むしろ、他の人よりたくさんの家族に囲まれてる感じで楽しかった。
全然寂しくなかったなんて言ったら嘘になるけど、そんな時は周りのみんなと馬鹿みたいにはしゃいだりしてれば、なんで寂しかったのか忘れちゃったりしてた。

そんなふうに、いろんな好きに溢れてる毎日はすっごい楽しかった。でも、ほんとに人に恋したり、人を本気で好きになったり、ってことはまだないと思う。
「その人の事を考えると胸が苦しくなる」「締めつけられるみたいに切なくなる」なんてよく聞くけどさ。そんな風に誰かに対して感じたことはないから、実感がわかない。
好きなのに苦しくなるのかな?会えないとそうなるの?正直、よくわかんなかった。


人との付き合いって、なんか鏡みたいだなって思うことがよくある。
こっちが仲良くしたいと思わなかったり、不機嫌だったりすると相手もそんな感じになる。
逆に「ああ俺この人好きだな、仲良くしたいな」って思って、そういう気持ちで接してるとそれが自分に返ってくる。相手もなんだか俺に好意的になってくれる、ような気がする。

だから俺は、出会う人みんなに笑顔で話しかけたい。毎日笑顔で話して、一人でも仲良くなれる人、好きになれる人を増やしたい。
今日会えた人に、明日もまた会えるかどうかなんてわからない。だから、そうしないともったいないって思うんだ。
早乙女学園に入ったら、周りのみんなはライバルだって言われたらその通りなんだけど。
でもどうせ競い合うなら、お互い負けないぞーって明るい気持ちで頑張ったほうが楽しいんじゃないかな。

そうやってたくさんの人と仲良くなれたら、いつか俺も見つけられるかもしれない。
この世で一番大好きで守ってあげたいって思えるような、そんな大切な人を。



ここからは、人を本気で好きになるってどういうことなのか知らずにいた子供が、迷い込んだ森の中で途方に暮れる物語。
すぐそばにいたはずの青い鳥を見失って、泣きながら探して、やっとその手に捕まえるまでの長い長いお話。




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