音也2

□3
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3.


夢って、どんなときに見るんだっけ?

昔から、俺はあんまり夢を見たことがない。
いや実は見てるのかもしれないけど、よく覚えてない。だいたい布団に入って目をつぶって、もぞもぞしてるとすぐに眠気がやってくる。
そのままとろんと眠りの世界に潜っていって、気がつけば朝になってることが多い。ぐっすり眠ってる時って夢は見ないんだっけ?じゃあ俺は、いっつもぐっすり熟睡してたってことなのかな。

でも早乙女学園に入学してから、なんだかちょこちょこ夢を見るようになった。トキヤと一緒の部屋で眠るようになってからだ。
そんなに長い夢とか突拍子もない夢じゃない。大体が短くて、ぽつぽつ断片的な夢、なような気がする。朝になるとよく分かんなくなってたりする。

多いのは小さいころの、懐かしい夢。
ちっちゃい俺とトキヤに、にこにこしながらおばさんが出してくれたプリンのこととか。
プリンが乗っかったガラスの器が、やけにキラキラしてたこととか。
それを見るトキヤの顔もキラキラしてて、それを見てすっごく嬉しくなったこととか。
だいたいは幸せで、あったかい記憶の中の一場面ばかり。

夢の内容をはっきり覚えてることもあれば、なんか嬉しいような気持ちだけがぼんやり残ってることもある。
ああ、もっと続きが見たかったのに。そう思うと布団から出たくなくてもぞもぞして、いつのまにか二度寝してトキヤに怒られたりした。

ちっちゃいころの夢が多いのは、きっとトキヤに久しぶりに会ったからなんだろう。
トキヤのちょっとしたしぐさや表情、声の抑揚や匂い。
それらが俺の頭の中に入り込んで、昔の思い出が入った引き出しをちょこちょこ開けてるんじゃないかな。そんな気がする。

でもいままで夢自体そんな見てなかったのに、なんで見るようになったんだろ?って、ちょっと不思議だった。
最初はなんとなく首をひねってるだけだったんだけど、ある日ふっと思い当たった。

夢を見るときって、トキヤが夜中とか朝方に帰ってくるときだ。

トキヤは早乙女学園に入ってからもHAYATOとしての仕事を続けていたから、当然それで部屋を出入りすることが多い。
時には泊りがけになったり、何日も留守にしたりする。帰ってこれても、俺が寝てる時間のことがよくあった。

部屋のドアがそっと開けられて、ほとんど物音を立てずにトキヤが入ってくる気配がする。
上着を脱ぐ微かな動きや、ほんのちょっとした息づかい。洗面所の水の音。ぐっすり眠ってたはずの俺の意識が、どこか遠くにそれを感じて身じろぎする。
眠りが浅くなって、懐かしい夢を見るのはそんな日だった。



変なの。
いままでずっと施設で、何人もの仲間と同じ部屋で一緒に暮らしてきたはずなのに。
人の気配も、出入りする物音も、いままでずっと気にならずにぐっすり眠っていたはずなのに。

なんでトキヤの気配だけ、こんなに気になっちゃうんだろう?





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