音也

□7
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7.


仲間がみんな眠りに落ちて、しんと静かな夜。ふと目が覚めて、天井の星の飾りを見つめてみる。
おやすみなさいの挨拶をして灯りを消したときにはまだぼんやりと光っていた星は、もう闇に溶け込んで全然光らない。
目を凝らしても、なんとなくそこにあったっけ?って想像がつく程度。
まっくら。なにもない、ただの暗い闇。

そんな時、たまに布団からそーっと抜け出して外に出てみる。
どうしても夜空の星が見たくて。




もう五年生なんだから、夜中に泣いちゃったりすることはない。雨の音に怯えることもない。
でもこんなふうにふと、胸がぽっかり真っ黒い感じになることがある。
いつもだったら明日の朝ごはん何かなーとか、放課後のサッカーのこととか考えてればわくわくしてくるはずなのに。心がまったいらになったみたいに、なんの波も立たなくなってしまう。

トキヤの家に泊まってるときだったら、隣のベッドにそろそろと潜り込む。
あったかい腕にぎゅっとつかまってれば、そのうち眠りの中に戻っていけたんだけど。
平日も週末も忙しいトキヤとはなかなか時間が合わなくて、お泊りすることもほとんどなくなっていた。
こういう時に一人で布団にもぐっていてもなかなか眠れなかったりするから、ギターを片手にそろそろと外に出てみる。

施設の庭は木が生い茂ってて、庭からだと空全部を見渡すことはできない。
だからそろそろと屋根の上に登って、特等席から空を眺める。柿の木のあの枝から右足をかけて、あそこのでっぱりをつかんで。もうルートは頭の中に入ってるから暗くても大丈夫。


「…ふう」


夜空のてっぺんには満月。そして一面の星。
月が明るすぎて、星の光はちょっと弱い。月の光と星の光が一つになって、優しく包み込むみたいに降ってくる。
きらきらと輝く、でも太陽みたいに眩しくはない白い光を見てるうちにちょっとずつ気持ちがあったかくなる。
まっくらじゃない。ちゃんと、お月様が照らしてくれてる。
座った膝をぎゅっと抱え込んでいた腕をほどいて、つやつやしたギターの表面をそっと撫でてみた。


「…うた、うたいたいなあ」


でもこんな夜中にギター弾いて歌い出したらあっという間に見つかって怒られちゃう。
寝てるみんなを起こすわけにもいかないよね。

月の光でほんわかしてきた、今の気持ちはこんな感じ?それともこうかな?
心の中でフレーズを思い浮かべて、コードの形にした指で弦をそっとなぞった。




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