短編

□16year's first
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問題です。今日、四月十一日は、一体全体なんの日でしょう。
四月の第二水曜だね。新生活の初日かな? 入学式? 入社式? どこかの夫婦の結婚記念日? はたまた彼氏彼女との一ヶ月記念日?
広い日本ではどれも正解かもしれないけど、俺が指していることとは違うから今回は全部はずれ。
答えが知りたい? その前に少し考えてみて。制限時間に一分間あげるね。
それじゃあシンキングタイム、スタート!


四月に入って早十日。新生活には慣れたかな?
俺はまだまだ学生気分が抜けなくて、目覚めた瞬間慌てて制服を探してしまう。
やばい課題終わったっけ? 今日って確か一限から大事なテストだったような。やばい、遅刻遅刻!
程よく温まった掛け布団を弾き飛ばし、大急ぎでベッドを飛び出して……見覚えのない部屋にしばし呆然とする。
どかどかうるさい不規則な鼓動を聞きながら、せわしなく辺りを見渡し、爆発した頭を片手で撫で付けて。
それでようやく息をつく。
なんだ、今日、学校じゃないや。
そもそも、俺はもう学生じゃない。
忘れもしない一ヶ月前の卒業オーディションで、めでたく新人アイドルの座を獲得したんじゃないか。


……おっと、自分語りなんかしてる間に、お約束の一分は過ぎていたようです。
さあさあ問題の答えは出ましたか? それでは答え合わせと参りましょう。
それでは改めてお伺いします。
問題、『四月十一日はなんの日でしょう』の答えは?




誰に向けるでもなく、面白おかしくクイズ形式にした問題を、俺は俯いて自ら解く。
正解は、一十木音也、俺の誕生日、でした。
お祝いのメール、メッセージ、プレゼントは二十四時間受付してますのでどうぞよろしく。
……なんてアピール文も心の中で用意してみたけど、向ける相手がいないことに気付いて自虐的な笑いで掻き消した。

誕生日はおめでたいもの。そりゃ俺だってそう思う。
大好きな友達の誕生日なんて何があっても絶対に祝ってやりたいから、何日も前から準備して指折り数えてその日を待ったりする。
でもそのお祝いは、相手と都合が合わないと成功しえない計画だった。
メールでだって言えるけど、せっかくのお祝い事なんだからできれば顔を見て「おめでとう」って伝えたかった。
その為には、その相手に会いにいけるくらい近くにいなければならないんだ。

でも今日に限って、俺の近くには誰もいない。
一般家庭よりも多い兄弟たちも、当たり前の顔で同じクラスにいた奴も、話しかければ振り向いてくれた先生も、憎まれ口ばかり返してくるのに心の底の底の方では優しい同居人も、

誰も。
見慣れた校舎にいるのに、まるで知らないところに来てしまったような疎外感を覚えながら、俺は一人きりでぱっとしない曇天を見上げている。
おかしいな。オーディションに合格して将来に繋がったことで、俺の人生経路は花丸のはずなのに、どうしてこんなに塞いだ気持ちになるんだろう。
そんな風に似つかわしくない侘しさにかられながら、ただぼんやりと空を見上げていた。






『16year's first』







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