短編小説
□年越し
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今日は大晦日。
昼間は新八と神楽と3人で万事屋の大掃除をし、年越しは姉貴と過ごすからと言って新八は帰っていった。
「さて、年越しソバの準備でもしますかね〜」
新八を見送ってから俺はそう言うと、
「どうせ今年もとん兵衛ダロ!3分でできるんだから今から準備する必要ないアル」
神楽の的確な一言が飛んできた。
去年の大晦日、神楽は誰から聞いて来たのか知らねーが、年越しソバを食べたいと言ってきた。
俺は正直面倒くせぇと思い、食料のストックとして置いておいたそれで済ませたのだ。
神楽には、
「このとん兵衛で年越しすると、1年間健康で良い事ばかり起こると言い伝えられているんだぞ。」
…なんて適当に教えたもんだから、後日友達にこの話をして大恥をかいたらしい…。
素直に信じちゃうところがバカ可愛いなんて思ってしまうんだが、流石に悪いことをしたなと反省もしている。
…で、だ。
今年は銀さんがソバを作ってやろうかな〜なんて思ってるわけ…。
「神楽、今年はとん兵衛じゃなく銀兵衛だぞ。 」
「何アルか?銀兵衛って…。怪しいことこの上ないアル。」
流石に去年の事があってか、神楽の視線は冷たい…。
「いや、今年は銀さんが特製ソバを作ってやろうかと思ってさ…」
そう言うと、先ほどまで疑いの眼差しを送り続けていた神楽の目がキラッと輝いた。
「銀ちゃん!マジでか?銀ちゃんが作るアルか?」
「おうよ。だから材料買いにいくぞ!」
「了解ネ!」
早速上着を着て、出掛ける準備を始める神楽…。
コイツは何だかんだ言いながらも、俺が作った料理を喜んで食べてくれる。
それが嬉しくて、自然と台所に立つ機会が増えていたことに気付いたのは最近の話…
「銀ちゃん!私、今日絶対12時まで起きてるネ!銀兵衛楽しみアル!」
「テメェ毎年そう言いながら、12時まで起きてた試しねぇだろ?
去年だってソバ喰ったの10時だぞ?ちょっと遅めの夕食と変わらねーじゃねぇか。」
「いや、もう去年までの私とは違うネ。この一年で神楽様は大人女性に進化したアル!」
「へいへい。ホレ、紅白始まる前に買い出し行くぞ。」
「そうだったネ!銀ちゃん急ぐアル!」
そう言って俺の手を引く神楽…。
俺は自然と口元が緩んでいた事に気がつき、慌てて引き締めたのだった。
***
「なーにが大人女性だ…」
現在時刻は夜の9時半…
先ほどまで紅白を見ていた神楽だったが、今は自分の肩にもたれかかってスヤスヤと寝息をたてている。
(結局ソバ食えてねぇじゃねーか…)
そう思ったが、気持ち良さそうに眠る彼女を起こす気にはなれない。
あと何回、コイツと一緒に新年を迎えられるのかなぁ…
ふと、そんな事を考えてしまう自分がいた。
一昨年より去年…昨日より今年…
俺達の繋がりはどんどん深いものになってきている。
一人で居た頃に比べたら…
…いや、比べものにならない位コイツらが来てからの万事屋は充実している。
血は繋がらないにしても、新八も神楽もかけがえのない存在で使い古されている例えではあるが、本当に家族のような…
今はこの生活に非常に満足している…。
(今は……な。)
そう思いながら再び神楽のほうに目を落とした。