短編小説
□雪の降る町
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「銀ちゃん銀ちゃん」
「んぁ?」
そろそろ眠りにつけそうだと思っていた夜の12時。
俺は少女の声で再び現実に引き戻された。
「ねぇ、銀ちゃんてば!」
「…」
「銀ちゃ「うるせェェェェェェ!」
なんでコイツはこうも俺の睡眠を邪魔するのだろうか…。
俺は仕方なく瞼を開いた。
「ホラ!見てヨ!外がゴッサ綺麗ヨ!」
そう言って神楽は部屋の窓に手をかけ、ガラガラと一気に引いた。
「さむっ!」
「銀ちゃん銀ちゃん!これでネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲たくさん作れるアルね!」
外は牡丹雪がしんしんと降り続いていた。
歌舞伎町は夕方から大雪が降り、ニュースでは例年にない積雪になるという話しだった。
ここ最近は雪が降ると言いながら、アスファルトをサラッと覆う程度の雪しか降らず、まさに『降る降る詐欺』じゃねぇか、と雪国育ちの俺…じゃねぇや、空知先生は思うだろうが、今回は比較的しっかり降っているようだ…。
「ってか寒みぃよ!そこ閉めろや!」
嬉しそうに外を眺める少女の耳に、俺の声は全く届いてないご様子。
「オイ神楽、」
キャッキャ言いながら、外を眺める神楽…
どんだけ雪に夢中なんですかコノヤロー
仕方なく、布団から起き上がり少女のもとへ歩み寄る。
「あ、ぎんちゃん」
「ぎんちゃん、じゃねぇよ寒いって言ってんの、早く閉めろよ。」
「いやアル。見てヨ銀ちゃん!夜なのに外が明るいヨ。
こんなのめったに拝めないネ。もっと見てたいアル!」
「んじゃ何も俺の部屋じゃなくていいだろ!あっちの部屋にも窓あんだろ!?」
「こんな夜中に、こんなに可愛い少女が窓開けて顔出してたら危ないアル。」
何がどう危ないんだよ…と思ったが、そこは言わないのが身のためだ。
「へーへー」
こうなったら何を言っても無理なのは承知している。
何より、景色を見ながら目をキラキラ輝かせる神楽を見ると、軽く1時間以上はここに居そうな雰囲気で、仕方なく俺も隣に並んだ。
確かに、真っ白の雪が辺りを照らし、空は赤く見えて幻想的だった。
いつもはこの時間でも賑やかな歌舞伎町だが、今日は物音一つ聞こえてこない…。
まるで、俺と神楽しかいないみたいだ。
「お前の国は雪とか降らないの?」
俺達は長いことずっと一緒にいるが、あまり過去の話をしたことが無い。
とゆうか、そもそも他人に興味を持たない俺が、こんなどうでもいい質問をすること自体、不自然極まりないのだ。
神楽も少し意外そうな顔をしていた。
「いや、ずいぶんとまぁ嬉しそうに眺めてんなぁと思ってさ…そんなに雪が大好きですか、神楽ちゃんは〜」
少しイヤミを込めて言ってみた。
次に返ってくる言葉はだいたい分かっている…『雪見てハシャぐなんて、そんなお子様じゃないネ!』とか、そんなとこだろう…。
「そんなガキじゃないアル!」
ほら当たり。
やっぱ単純だなコイツは…
想定の範囲内に居る神楽を見ると、なんかすげー安心する。
「ガキじゃないけど…、私の国は雨ばっかだったヨ…だから雪が降ると感動するネ!」
お、珍しく素直じゃん。
俺は、嬉しそうに身を乗り出し、雪を触ろうとする神楽をチラリと見た。
「でもね銀ちゃん…」
そう言って神楽が話しを続ける…
「歌舞伎町なら…
…ココならどんな天気でもハッピーヨ。銀ちゃんと、こうやって見る景色はどんなのでも嬉しいネ。雨でも曇りでも雷でも…どんな天気も大好きアル!」
何言っちゃってんの?コイツ…
「銀ちゃん…
万事屋に置いてくれてありがとネ。」
「お…おう。」
やられた。
完全にノックダウン…。
誰にも興味ないなんて嘘。
俺は完全に隣の少女に惹かれている…。
いつもなら絶対に認めない俺だが、しんと静まり返ったこの雪景色の中で自分の心臓だけが大きな音を立てていて、それはまるで、自分の気持ちをごまかし続けてきた俺に、
「もう観念しろ!」
と言っているようだった。
おわり