短編小説
□素昆布少女の憂鬱
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ある晩、押入れの中ですやすや眠っていると
「かぐらちゅあぁぁぁん、帰ったぞ〜。」
と万事屋のマダオこと、銀ちゃんが帰ってきた。
無視してやろうかと思ったが、
「お〜い、神楽ちゃん〜水〜み〜ず〜」
と、うるさくて眠れない。
しかたなく起き上がって、いつものようにコップ一杯の水を持っていった。
玄関で寝ている姿を見たら、なんかムカついたので頭から水をぶっ掛けてやった。
「!!!」
「つめたっ!つめたいよ!
えっ?えっ?ちょっと何すんの?そろそろ冬だからね。結構寒くなってきてるからね!風邪引いたらどうすんの?」
「バカは風邪引かないから大丈夫アル」
「ひどいっ!ひどいよ。」
フワフワのテンパは水分を含んでペタンコになっていた。
銀ちゃんは目が覚めたのか手をついて起き上がった。
「自分で動けるなら最初から自分でやればいいアル。」
「あ〜冷たい、水も冷たきゃ神楽ちゃんも冷たいね!そんな子に育てた覚えはありません!」
ずきん…とした。
「うっさい、んなマダオに育てられた覚えはないネ」
そう言って押入れに戻った。
まただ…銀ちゃんは私のことを娘みたいに言う。
「ウチの子」「家族」「門限」…
確かに自分を大切にしてくれているのは嬉しい。
初めは私も本当のパピーみたいに思っていたが…
なんだか最近銀ちゃんのそんな扱いにウンザリだった。
***
しばらくしてシャワーの音が聞こえてきた。
銀ちゃんがお風呂に入っている音だ。
私は再び起き上がり、押し入れを出ると、薬箱から二日酔いの薬を取り出した。
先ほどのコップに水を汲み、テーブルの上に一緒に置く。
「これでいいネ…」
最近は銀ちゃんが酔って帰ってくると、いつもこうして二日酔い対策セットをテーブルに置いておくようにしていた。
「全く、手のかかる子アルね〜」
そう言って溜め息をつく。だが気分的には満足だった…銀ちゃんだってまだまだ子供ネ!
心の中で捨てゼリフを吐いて、押し入れに戻った。
「ったく…誰が手のかかる子だよ…」
神楽が押し入れに入って行くのを確認すると、すっかり酔いが醒めた銀時が顔を出した。
そして、机の上に置いてある薬を手にとり口に含むと、水で一気に流し込んだ。
***
次の日の朝、眠い目をこすりながら押し入れから出ると、昨日自分が置いておいた薬は、素昆布に変わっていた…
「キャッホー!すこんぶアル」
飛び跳ねて喜んでいると、いきなり和室の襖が開いた。
意外にも早く銀ちゃんが起きてきたのだ。
私ははっとして喜びを抑えた。だって素昆布1個で喜ぶのは子供っぽいから…。
「こんなんで喜ぶガキじゃないネ。」
私は持っていたすこんぶを銀ちゃんに押し返した。
「べつにお前にやるとは言ってねぇよ。そこに置いておいただけだし。」
「それは嘘っぱちネ!銀ちゃんはすこんぶ食べないアル!」
「いやいや、二日酔い防止に食べようと思って買ってきたんだ。でも…」
そう言って銀ちゃんは私に近づくと頭をワシャワシャと撫でた。
「必要なくなったから、やるわ。」
そう言って厠に向かった銀ちゃん…
私のクシャクシャになった頭の上には、すこんぶが乗っかっていた…。
ほらまた子供扱いだ…
いつもそう…
新八と私だってそんなに年は変わらない…
なのに私だけがこんな扱いな気がする。
いくら私が頑張っても、この差は埋まらないんだ…きっと。