短編小説

□ヒロイン奪取作戦
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それから新八は
銀時と女性が歩いていた所を目撃した話から、神楽のヒロイン論…そして銀時の相手をつきとめ、ヒロインとしての力量の差をみせつけてやるネ!と張り切っていた少女について説明したのだった…。




「ツッコミ所多すぎるんですけど…ヒロインとしての力量の差って何よ、マジ何がしたいワケ?コイツは…」


「…ですよね」


ははは、と他人事のように笑う新八だったが、銀時としては複雑な心境だった。
だって話を総合するとコイツはヒロインになりたいだけだから…

これで俺に女がいると知って、ヤキモチなんか妬いてくれたら嬉しいんだけどな…なーんて…。


「すみません、まさか神楽ちゃん本気でこんな事するとは思わなくて…」

新八は散らかった部屋を眺めながら言った。


「やると言ったらやるだろ…アイツは…」

そう、神楽はそうゆう奴だ。一度言い出したら絶対聞かないし…頑固だし…。

でも、あんだけ強い意志で想われたヤローはどんだけ幸せなんだろうか…そしてそれが俺だったりしねぇかなぁ…


…あ
…やべ
悲しくなってきたから考えんのやめよ…。




「…あと新八、お前が見た女性…あれ依頼人な。」


「あぁ…やっぱりそうですよね」

「やっぱりって何!?ちょっと傷つくんだけど!そうゆう言い方やめてくんない?」


「ははは、すみません、冗談ですよ。僕夕飯の買い出し行ってきますね」


「ああ、俺はこの部屋片しとくわ。」



そう言って各々の作業に取りかかった。




***



新八が出て行ってしばらくしてから、銀時は未だにスヤスヤ眠る少女に近づいた。

普段は加齢臭加齢臭と騒ぐ少女が、自分の着流しにくるまっている姿を見ると、自然に笑みがこぼれる。



「お前、そんなにヒロインになりたいの?」


顔にかかるオレンジ色の髪を、耳にかけてやった。

サラサラと指からこぼれ落ちる髪が心地良かった。


「全く…他に誰が居るんだよコノヤロー…」


…俺のヒロインはお前だけだよ、とそっと心の中で呟いた。





さて、片付けの続きでもしますかね〜…
そう考えて立ち上がろうとしたとき、何かが自分を引き止めた。



神楽が俺の着流しの裾をギュッと握っていた。


「かっ…神楽?」


「…。」


返事は無い…


「寝てんのかよー。あーびびった。」


無理やりでも引っ張っれば、その手を外すことはできたが…

「ったく、一体何なのこの子は〜。」

…と、ため息をつきながらも、銀時は再び少女のそばにしゃがみ込んだ。


スヤスヤとよだれを垂らして眠る少女に「きったねー」と言いながらも自分の着流しで拭ってやる。


そんな幸せそうな少女を見ていたら、何だか自分ばかりが振り回されているような気がして悔しくなった。



「そうだ…」


良いことを思いついたと言わんばかりにニタァと笑うと、少女の耳元に顔を近づけた。


「銀さんのヒロインになりたい…銀さんのヒロインになりたい…銀さんだけのヒロイン…銀さんだけのヒロイン…銀さん…銀さん…」


我ながらバカだと思うが、暗示をかけるように繰り返し繰り返し囁く。





「ぎ…ん、ちゃん」

神楽の口から確かに自分の名前が漏れた。




それを確認すると、先程よりも黒い笑みでニタァと笑う。





コホンと軽く咳払いし、再び少女の耳元に顔を近づけた。




「銀ちゃんが好きアル、銀ちゃんが好きアル、銀ちゃんが好きアル、銀ちゃんが好きアル…」



より神楽が言い易いようにアルアル語で…そしていつかは彼女の口から聞きたいと、願って止まない言葉を…






「す……き…あ…る」




プププー。バカだねこの子は〜単純だね〜





何だか楽しくなってきて、お次は何をしようかと考えていると、


「ぎ…ん…ちゃん」


再び自分を呼ぶ声が耳に入ってきた…



「ぎん…ちゃん…」






「ぎんちゃん…」






「ぎんちゃん…」





何度も呼ばれる自分の名前。
コイツ本当に寝てんのかと疑ってしまうくらい…。

すげー嬉しそうな顔して俺を呼ぶ声。



自分が仕組んだことなのに、嬉しいやら恥ずかしいやら…








いつもそうだ。
最終的に気持ちを乱されるのは俺ばかりで…



これが惚れた弱みとゆうやつだろうか…。




「思わせぶりな態度、やめてくんない?銀さん期待しちゃうよ…」




そう言っていまだにスヤスヤ眠る彼女の頬をつついてやった。




***
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