短編小説
□チョコが欲しい!
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「神楽ぁ…このチョコ残り全部貰ってもいい?」
「別にいいアルよ」
「サンキュー」
そう言って銀時は残りを取り出し、パキンパキンと全て食べてしまった。
「銀ちゃん」
残り一つを食べている途中で神楽が声をかける。
「ん〜?」
「そんなに美味しかったカ?そのチョコ」
「あぁ…、これくれた誰かさんには本当に感謝だな」
「ふ〜ん…」
「はいっ、御馳走様でした。んじゃ俺、風呂入ってくるわ」
無記名チョコを全て食べ終えた銀時は、さっさと立ち上がり部屋を出て行った。
***
パタン
扉が完全に閉じるのを確認した神楽は傍らで眠る定春に駆け寄る。
「さだはるぅ〜、聞こえたアルか?銀ちゃん美味しかったって…ごっさ嬉しいアル!」
そう、あの無記名チョコの差出人は神楽だった。
仲の良い友達に手伝ってもらい、こっそりとチョコレートを用意していたのだ。
昨年のバレンタインは、万事屋の二人にチョコを渡すため、お妙たちの協力のもと色々な作戦を試みだが、結局自分の勇気が無く諦めてしまったのだ。
ただこの1年間、銀時への気持ちは日に日に増すばかりで、今年こそはどうしても自分の手作りチョコを渡したいと考えていた。
そこで思いついたのがこの作戦だ。
本当は無記名でポストに入れておこうと思ったが
予想外に沢山の人がチョコを持ってきたので、さりげなくそこに紛れさせることに成功したのだ。
不器用な神楽にはチョコを溶かして固めるくらいしかできなかったが、
銀時は予想以上にそれを気に入ってくれたようで神楽は大満足だった。
「さだはるぅ〜さだはるぅ〜ねぇ聞いてたアルかぁ?美味しかったって〜」
「ワン!」
神楽は嬉しくて仕方がない様子で定春とじゃれ合っている。
その様子を扉一枚隔てた向こう側で窺っているのは、もちろんチョコを貰った銀時だ…。
(…ったく、アイツいつからあんなに演技派になったんだよ。すっかり騙されちまったじゃねぇか。)
今年も遂に神楽からチョコをもらえないと心底ガッカリしていた銀時だったが、無記名の包み紙を見てからは顔の緩みを抑えるのに必死だった。