小話帳


□幻の中で…
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5・11






クナイが男の口元から喉元へ移動する。





「……ナルトに何をした」





低い声でカカシはそう言うと、クナイを持つ手に力を入れる。



肌を削る感触がクナイを通して伝わってきた。



ツ……と赤い血が、糸のように男の喉から垂れる。



だが男はそれを気にすることもなく至って冷静にカカシの問いに答えた。





「…ちょっと記憶を変えさせてもらっただけだよ」





何でもないことのように、さらっと言ってのけるその口調にカカシはさらにクナイを持つ手に力を込めた。



糸のようだった血が、一回り太い線となって流れ出る。





「記憶……?」



「そう。新しい記憶をね、ナルトのために俺が作ってあげたんだ」





男はクスクスと楽しげに笑う。



その表情は恍惚としていて、酔いしれているようだった。





自分が作り出したこの現状がよほど悦に入っているらしい。





だがその笑い声はさらにカカシの神経を逆なでするだけ。







男が動かせない顔の代わりにナルトに触れようと手を伸ばした。



それを視界の端に捕えたカカシは思い切り顔を歪める。







「ナルトに触るな」







クナイを持っていない左手が、ナルトに触れようとした男の腕を強く捻り上げた。







「ウッ……」





男は痛みに小さく呻く。



しかし口元はすぐにまた弧を描いた。





「……どうしてそんなこと言えるの?ナルトはあんたのものじゃない。ナルトの視線に気づきながらもずっと知らん顔してきたのはそっちだろう」



「……」





目の前の見知らぬ男がナルトの名を口にするたびにカカシの中で殺意が育っていく。



男は左後ろにある真紅の瞳を目だけで見返した。







「気づいてたんだろ?ナルトの視線に。それでもあんたはそれに答えようとしなかったじゃないか」





カカシはその言葉にピクリと眉を動かした。





「見てられなかったよ。ナルトはいつも苦しそうだった。俺ならそんなことしないのに。俺ならナルトだけを見て、ナルトだけを愛して、何があっても苦しませたりしないのに!」





そう言っているうちに、男の顔から笑顔は消え、その顔は憎憎しげにカカシを睨みつける顔つきへと変わっていく。





「……だから記憶を?」





――冷静にならなければ。



そうわかっているのにカカシの声が怒りに震える。







「そうさ。ナルトが愛してるのはこの俺だと記憶を作り変えてあげたんだ」







カカシの言葉でそのことを思い出したように男はまた笑顔に戻った。





「……次に目が覚めた時、ナルトが愛しているのはあんたじゃない」





男は勝ち誇ったように薄く笑った。





「クク…早く目を覚ましてナルト……」





ナルトを嘗め回すように見るその目に、カカシの中で何かが切れた。







男を掴んでいた左手を思い切り引っ張り、ナルトの眠るベッドの反対側の壁に勢いよく男を投げつける。



衝撃に目を閉じた男に一瞬で詰め寄り、男の両掌を掴みあげると、掌ごと頭上の壁にクナイを打ち付けた。





「ぐぁああ!!」





掌から真っ赤な血が流れて男の腕を濡らす。





その間にカカシの右手には青白い光が集まり始めていた。





――バチッと弾ける音が鳴り、カカシの左目に宿る殺意が一際強くなる。







「……ふざけるな」







殺気に満ちたカカシの声と、バチバチバチッと立て続けに鳴り出した音に、男は目を見張った。



打ち付けられたクナイで身動きができない。



今の状態では避けようがなかった。





「……ッ、……そんなことしても無駄だよ。俺を殺してもナルトの記憶は戻らない!」





男が今更何を叫ぼうが関係なかった。



カカシがこの世でたった1つ許せないことをこの男は犯したのだ。





「黙れ…………殺すぞ」



「ひ……ッ」







バチバチバチバチバチッ……



一回り大きくなるチャクラと、そこに流れる電流音が大きくなる。





カカシが男に向かってスッと右腕を持ち上げた時、カカシの背後で気配がした。





「………」





壁に縫い付けられたままの男が、にやりと笑う。





「目が覚めたんだね、ナルト……」






***
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