小話帳


□幻の中で…
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5・12





ナルトはいつしか落下をやめて、闇の中を自分の足で立っていた。



上も下も目に映るすべてが真っ暗だ。





――おいで…





ナルトは声のした方に顔を向ける。





(だれ…?)





誰かが、闇の中に立ってこっちを見ている気がした。



声を聞いた時は確かに知っている気がしたのに、 顔が思い出せない。





――ナルト……





だれがオレを呼ぶの?



響く声に胸の奥が痛いほど締め付けられる。



なのにその顔がわからない。





――おいで……





ナルトはフラッとそちらへ足を踏み出した。





――いい子だね……













〜〜〜〜〜〜







「目が覚めたんだね……ナルト」





カカシは後ろを振り返った。



感じた気配に咄嗟に身構える。



金色の髪に、青い瞳。



オレンジ色の忍服。



ただ1つその額にあった木の葉の額当てだけがないだけで、そこにいるのは確かにナルトだった。







しかし――……







その表情も、投げつけてくる視線も、カカシの知っているナルトではなかった。





「……っ」





青い瞳が氷のように冷え切っている。



カカシの知ってるナルトはこんな目をしない。



カカシに向けてこんなあからさまな敵意を放つことなんて―――









ナルトは冷たい瞳のままカカシに向かって言った。





「……その人を傷つけたら許さない」





カカシの右腕から徐々に集まっていた光が失われていく。



一瞬カカシは、ナルトがどちらにそれを言ったのかわからなかった。



カカシなのか、壁に貼り付けられた見知らぬ男なのか。





いや、わかりたくなかった。





あのナルトが、自分にこんな目を向けるなんて。





(……ナルト……)





カカシの脳裏に、輝くような笑顔が浮かぶ。



いつも人懐っこい笑顔で、嬉しそうにカカシに飛びついてきて。



イタズラ好きで、意外性ばかりで、人一倍努力家で―――……







「……クッ!」





だがそんなことを思っている間に、ナルトはベッドの上から高く跳躍してカカシに飛び掛ってきた。



拳を思いっきりカカシに振り下ろす。



続けざまに蹴りが飛んできて、カカシは壁際に飛び退いた。





(……ナルト……)





カカシはやりきれない思いでナルトを見つめる。







ナルトはカカシが離れた隙に壁に打ち付けられたクナイを男の掌から抜き取っていた。





「ありがとう」





そう微笑んだ男に頷いて、ナルトはもう一度カカシへ向き合う。



その一連のやり取りに、カカシは色違いの瞳を苦しそうに揺らした。



目を逸らしたくなるような光景。



でも今のナルトから目を離すわけにはいかない。



ナルトが印を結び、そこら中に煙が上がって何体もの影分身が現れる。





(……来るか)





影分身たちが一斉にカカシに襲いかかってきた。











「……薬はうまく効いたようだね」





男は2人がやりあう様子を見てゆっくりと口角を上げた。



計画通りだ。



まず記憶を全て消し、その上で新たな記憶を植えつける。



だが新しい記憶といっても何もかもを作り変えたわけではない。



愛している存在をカカシから自分に置き換えただけで、他の部分はほぼ元のままにしてあった。





「綺麗だ……」





ナルトは今忍としての自分を取り戻している。



その動き全てが男の心を擽った。





人形のようなナルトが欲しかったわけではないのだ。





こうして意志を持って自分の元へ駆けて来る姿こそ、ずっと欲していたもの。







「ゾクゾクするよ。これからはずっと俺だけのナルトだ」







カカシはそんな男の独り言に思い切り顔を顰めた。



目の前にいるナルトからの攻撃を間一髪で避けながらナルトを元に戻す方法を必死で探す。



その鍵は間違いなくあの男だ。





(薬……記憶を操作する薬か……)





右から襲う拳と下からの足払いを避けて高く跳躍すると、下から手裏剣とクナイが飛んでくる。



数人に減ったナルトの影分身を見て、その中から本体を探し当てるとカカシは天井をばバネにして本体の方へ自らの体を飛ばした。





「あっ…!」





ナルトが小さく声を上げる。



何で本体がわかったんだって言いたげなその顔。



冷徹な瞳に驚きが混ざる。



その顔にいつものナルトらしさを見て、カカシは僅かに目を細めた。





「どれだけお前の影分身見てきたの思ってんの……」





ナルトの目の前でピタリと体を止めると、カカシはそう言って微笑んだ。





「クソッ!」



「……まだまだ負けないよ」





カカシの左目が赤く燃え上がるのと、その背後からナルトの影分身2人が光る玉を両手に抱えて飛び掛ったのはほぼ同時だった。









***
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