短編
□手当て
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ハラ・・・と一枚、手にもった真っ白な包帯を広げて、オレは固まった。
目の前にあるのは、程よく筋力がついて整った男の体。
・・・ゴク、と喉が鳴ったのは決して変な意味じゃない。
「・・・これも任務だってば」
そうこれは任務。
「よし・・・やるぞ!」
気合を入れて腕まくりをすると、オレはその体に手を伸ばした。
何でオレがこんなことをしているのかといえば、その原因は火影であるばあちゃんにある。
『ナルト、お前がこれでカカシの手当てしてやんな』
そう言って真っ白な包帯と、どす黒い液体を渡されたのは、数時間前の火影室でのことだ。
――オレがここへ来る数時間前。
「ええ!カカシ先生また倒れたのかよ!」
オレが若干呆れ気味にそう口にすれば、綱手のばあちゃんは苦笑いして茶色い紙袋を手渡してきた。
「まぁそう言うな。今回は特にキツイ任務でな・・・カカシもかなり無理をした上に深手を負ってる。だが今は木の葉病院も手一杯なんだよ」
ばあちゃんはため息混じりにそう零す。
任務が絶えない忍は、常に死と隣り合わせ。
木の葉病院はいつも入院患者でいっぱいだ。
「本当ならカカシも入院した方がいいんだが・・・アイツは自分から自宅療養を選んだ。だが背中側の手当てはさすがに自分じゃできないからな。お前ならカカシの家の場所もわかるだろう」
「まぁ・・・」
だからオレが呼ばれたのか。
ん?でも・・・
「手当てならオレよりサクラちゃんのがいいんじゃねぇの?」
同じカカシ班のメンバーであり、さらに医療忍術が使えるサクラちゃんのが手当てになら向いている。
「サクラは木の葉病院でまだ仕事中だ。あいつをカカシ1人に取られるわけにはいかん」
「あーそっか」
サクラちゃんは最近更に力をつけ、任務だけでなく病院での仕事も増えていた。
日々任務と治療に追われているようで、最近は一緒の任務に就くことも減ってきたのが少し寂しかったりする。
「・・・で、これは?」
事情がわかったところでその紙袋を受け取り中身を見ると、真っ白な包帯が数本と真っ黒な液体の入った瓶が見えた。
「カカシの薬だ」
「・・・毒の間違いじゃねぇの」
その黒さといったらどう見ても薬じゃなくて毒にしか見えない。
こんなん飲んだら逆に死んじまいそうだってばよ・・・。
それを持ち上げてじっと見てたらゴンッと衝撃が走った。
「いってぇッ!!」
「あたしの調合に文句言うなんざ百年早い!」
ジンジンする頭を押さえて蹲るオレに構わずばあちゃんは薬の説明を始めた。
「それにはカカシの傷の消炎剤と、体に残った毒の解毒剤が混ぜてある。いいかい、それを傷口に塗ってから包帯を巻いてやれ。あと3倍に薄めたそれを毎食後飲ませろ。その後は1日カカシの様子を監視だ」
「え、1日も?」
オレはその意味がわからず腕を組むばあちゃんを見上げた。
「その薬はよく効くかわりに副作用も強くてな・・・・ある程度の薬に耐性があるカカシなら問題はないと思うが、まぁ念のためだ」
「ふくさよう・・・」
「薬の使用に伴って生じた治療目的に沿わない作用のことだ」
「・・・」
「・・・お前はわからんでもいい」
「・・・おす・・・」
「とにかく、カカシの様子を見ておかしければすぐ連絡入れろ」
「りょーかい!」
びしっと敬礼をして、オレは意気揚々と火影の執務室から飛び出した。
どんな理由であれ、普段カカシ先生の部屋へは滅多に行けないんだ。
久しぶりに先生の家へ行けることにオレは浮かれていた。