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□2012年 クリスマス
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どんよりと重たい雲の隙間から、チラチラと舞い始めた白い粉たち。
それに気付くと、道行く人々は立ち止まって思い思いに空を見上げた。
ある人は微笑み、ある人は掌に乗せようとし、ある人は迷惑そうに走り出す。
そんな様子を眺めながら、ナルトはハーっと白い息を手に吐き出した。
今年もこの季節がやってきた、とだけ思う。
ナルトはというと、イルミネーションの輝く商店街を歩きながらもそれは誰かと待ち合わせをしているわけでも何でもなく、
こんな日でも変わらず修行三昧だった。
色っぽい出来事になど全く縁はない。
修行で温まった体は帰る間にすっかり冷え、鼻先を赤くしたナルトは両手をポケットに突っ込んだ。
(しょうがねーよな。オレたち忍だし)
ナルトが色っぽい出来事に縁がないのは、誘いがないわけでもなければ、恋人がいないからでもない。
これまでに何人かの仲間や女性に誘われたがナルトはそれを全て断っただけのことで、その理由はただ1つ。
歴とした恋人がいるからだ。
(帰りは明日の夜……つってもどうせオレが朝からすぐ任務だから会えるわけないけど)
たとえ会えなくても、この日に他の人と過ごす気にはなれなくて。
ナルトは1人きりで修行に明け暮れたのだった。
街中は光の渦。
見慣れた街灯すら、いつもより綺麗に見える。
「……」
カカシがいてくれたら、という思いがふいにナルトの胸を締め付けた。
あの笑顔がここにあったら。
冷たい頬を包んでくれる掌があったら。
もっとこの街は輝いて見えるのに、と……。
「な、なんてな!」
ナルトは自分の考えを自ら笑い飛ばした。
そんなことを考えるなんて、らしくない。
いないものはいないのだ。
でも、何だかすれ違う恋人たちの幸せそうな笑顔が今は直視できなくて。
「……さっさと帰るってばよ」
ナルトは周りの景色を振り切るように家へと急いだ。