小話帳
□2012年4月15日〜27日
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2012・4・15
・現パロ
・カカシ⇒社会人でナルトの家庭教師
・ナルト⇒中学生
・回想シーン
〜忘れられない人〜
桜が舞い散る季節になると、どうしても思い出す人がいる。
その人は、オレがまだ中学生だった頃、家庭教としてある日突然家に現れた。
「キミがうずまきナルト君?」
そう言って顔を覗き込んできたのは、綺麗な銀色の髪を持つ大人の男。
「俺今日から家庭教師することになったはたけカカシ。よろしくね」
一瞬その見事な髪色に目を奪われたけど、家庭教師という言葉に一気に気分は最悪になった。
「か、家庭教師〜!?聞いてねぇってばよ!」
そう大声を上げたオレに、その様子を見ていた母ちゃんが言った。
「そりゃ言ったらアンタ逃げ出すじゃない。カカシ君はお父さんの元生徒でとっても優秀だったのよ」
安心してしっかり教えてもらいなさい、とにっこり笑う母ちゃんをオレは恨みがましく睨んだ。
「勝手に決めるなんて母ちゃんひどいってばよ・・・」
「こうでもしないと本当に行ける高校なくなるってばね!」
母ちゃんの問答無用の家庭教師決定にオレは最初項垂れたっけ。
でも、
「大丈夫。ちゃんと高校合格させてあげるから」
突然現れたオレの先生はそう言って笑った。
そしてその言葉通り、落ちこぼれだとみんなに見放されていたオレを見事にワンランク上の高校に合格させたのだ。
高校の合格発表の時はすっげぇ緊張して、何度も受験番号を見直した。
合格者の中に自分の番号を見つけた時は、飛び上がるぐらい嬉しくて、真っ先にそれを先生に言いたくてオレは走り出したんだ。
そしたらそんなオレを見透かしていたように、家の前にカカシ先生が立っていて・・・。
「カカシ先生!!」
駆け寄るオレを見て、カカシ先生は笑った。
きっとオレの顔見て一目でわかったんだと思う。
勢い余って飛びついたオレをしっかりと受け止めると、
「よくやったな、ナルト」
そう言って頭を撫でてくれた。
「にししっ!カカシ先生のおかげだってばよ!」
オレはとにかく嬉しくて。
合格したことは勿論だけど、カカシ先生が待っていてくれたことがもっと嬉しくて、強く抱きついた。
「ナルト」
「ん?」
呼ばれて顔を上げたら、目の前にはカカシ先生の濃藍の瞳があった。
なに?って言おうとして“な”の口の形を開けたオレの口は、何も言えなかった。
だってそこにカカシ先生の唇が重なっていたから。
「・・・・・」
オレの視界には早咲きの桜が映っていて。
それがカカシ先生の銀色の髪と見事なコントラストを描いてとても綺麗だった。
「・・・・」
何も言わずに重ねられた唇は、同じように何も言わずに離れていく。
「・・・ナルト。俺、今日からアメリカに転勤するんだ」
「・・・え?」
すぐに理解できなかった。
アメリカ?
カカシ先生が?
「だから今日でオマエの家庭教師もおしまい。楽しかったよ」
オレは何も言えなくて。
固まったままカカシ先生を見るしかできなくて。
でもカカシ先生は笑っていた。
「・・・合格、おめでとう」
それだけ言い残して、カカシ先生は行ってしまった。
「・・・・」
あれからもう三度目の春が巡って、オレは無事高校を卒業した。
今日も、早咲きの桜が咲き乱れて花弁を散らしている。
それを見るたびに思い出すんだ。
あの時のキスと、笑ったカカシ先生の笑顔と、優しい声を。
そして思い出す度に、心臓がぎゅって縮まる気がした。
どうしてこんな気持ちになるのかわからない。
でも、もう一度先生に会えたらわかる気がして。
「待っててくれよな、先生」
オレは今日、アメリカへ行く。
カカシ先生がいるアメリカに。
会いに行くんだ。
そうすればきっとわかる気がするから。
忘れられない、キスの意味が――・・・
***