小話帳


□幻の中で…
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5・9  

〜幻の中で…〜
 






目が覚めると、知らない天井があった。


ナルトは今まで寝ていたとは思えない勢いでがばっと起き上がる。





「……あ、あれ?オレ…」





ナルトは木製のテーブルと椅子が置かれただけのシンプルな室内を見渡した。



特に何の変哲のない部屋。



けれどなぜか違和感が拭い去れない部屋。




ナルトは記憶を辿ろうと額に手を当てた。




そこでまた違和感を感じる。



今触れた額には、金色の前髪が下りているだけだ。



だがここにはもっと違う何かがあった気がした。




何だろう。



何かが足りない。




けれどそれが何なのか、ナルトはわからなかった。



というか、辿るべき記憶そのものがなかった。



なぜここにいるのかわからない。


ここが何処なのかもわからない。



それ以前に自分のことがわからない。




ただ1つだけわかるのは、ナルトという名と今の状況に違和感を感じるということだけだ。





密室とも言える作りのこの部屋。



ただ1つ見える出入り口は、ナルトがいるベッドのちょうど右斜め前に取り付けられてた扉だけのようだった。



そこをじっと見ていると、木製の扉がギッと音を立てて開く。





扉の向こう側から顔を覗かせたのは、見事な銀髪を持つ綺麗な顔立ちの男だった。





「目が覚めたのか?」





ナルトが起き上がっているのを見て、その男は静かに声をかけてきた。



ナルトは無意識に両手で布団を握り締める。







この男は自分のことを知っているのだろうか……







「あの……」





ナルトは今の状況を聞こうと思った。



敵意は感じない。



ここはどこで、なぜ自分はここにいて、そしてなぜ何もわからないのか。



この男がどこまで知っているのかわからないが、とにかく情報が欲しかった。





「ここは火の国の外れにある隠れ里だ」





ナルトが聞こうとしているのを悟ったのか、男はナルトの方へ歩み寄りながらそう言った。





「隠れ里…?火の国…?」





その言葉を聞いてもナルトはここがどこなのかいまいちわからない。





「オレは…」



「お前はうずまきナルト。忍として木の葉隠れという里にいたが、敵に襲われた時に記憶を失って今はここで身を隠している」



「木の葉隠れ……」



「そうだ。思い出せるか?」





ナルトは力なく首を横に振った。



どの言葉もピンとこない。





「まぁいい。その記憶障害は敵に襲われた時に受けた術のせいだ。はいこれ薬」





目の前に差し出された錠剤をナルトは手に取れない。





今聞かされたことは本当なのだろうか?





だから頭も割れるように痛むのだろうか。







「…信じられない?」





動かないナルトに、その男は薬を持つ手を下ろした。





「いや…信じるとかそういうんじゃなくて、わからないんだってば…」





ナルトはまた額に手を当てて考え込んだ。





「じゃあ…もうちょっと教えてあげようか。お前のこと」



「……オレのこと?」



「まずお前には好きな人がいた」





その男はナルトに顔を寄せる。



ナルトはその分身を引いた。





「好きな人……?」



「そう」





教えてくれると言ったけど、なぜそんなことを1番最初に教えるのだろう。



戸惑うナルトに、男は少し目を細める。





「どうしようもなく好きで、好きで、いつも目で追うぐらい恋しい人」





男の顔がさらに近づく。



息がかかるほど近くで、囁くように吹き込まれた言葉にナルトは固まった。







「それが俺だ……」







予想もしなかった内容に、思考が止まる。





「…………オレが…?」



「そう。……それに俺もお前のことが好き」





真顔でそんなことを言ってのけるこの男の言葉は、どこまでが本当なのだろう。



何もわからないナルトにとっては、その言葉が真実なのか確かめることができない。



そうだと言われたら、それを信じるしかなくて。





「ナルトは俺のことが好きなんだよ」





そう言われても、自分のことなのにしっくりこない。



記憶がないからそれが普通なのかもしれないけど。





…いや記憶をなくすこと自体普通じゃないのだから何が普通だとかもないんだけど。





「好き……」





もう一度口に出してみても、やっぱり違和感だらけだ。



男同士だとかそういうものじゃなく、何となくどこかが違う気がする。





そんなに好きだったのなら、なぜその相手を目の前にしても何も思い出せないのだろう。





それどころかナルトの中にある違和感はますます強くなっていくばかりだ。





「無理に思い出さなくてもいいよ…ほら薬飲んで」





再び差し出された錠剤を、今度は手に取った。



他に思い出す術がないのだ。



今はそれに頼るしかないと思った。





「これ飲んだら頭痛も治まるよ」



「う、ん……」





ナルトは恐る恐るそれを口元へ運ぶ。



そしてゆっくりと錠剤を喉の奥へと押しやった。





ゴクンとナルトの喉が上下に動くのを見て、男は口角を上げる。





「いい子だ…」



「あ…れ…」





頭痛は確かにすぐに引き始めた。



しかし、それと共に意識も引きずられるようにして白く霞んでいく。





「ナルトはいい子だね…」





そんな呟きを聞いたのを最後に、ナルトは意識を完全に手放した。







***
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