小話帳


□曇天
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4・18



〜曇天〜







「っ・・はぁっはぁっ・・・油断したってばよ・・・」


ナルトは崖の下に横たわったままで浅い呼吸を繰り返した。

体の下には真っ赤な血溜まりが広がっていく。

さらに最悪なことに今空は厚い雲が覆いつくし、霧雨が舞っていた。

濡れて固まらない血は流れ出るのを止めない。


だがナルトは家で待つカカシを思い浮かべて、力を振り絞った。


戻らなかったらきっと心配する。


いつも大人ぶってても、カカシはまだ12歳なのだ。


ナルトはできる限り息を吸い込むと、指をくわえて一気に吸い込んだ息を吐き出した。


ピィーーーー・・・と甲高い音が空に吸い込まれていく。



僅かに抑揚をつけた笛の音を吹き終えると、ナルトの手は力なく地面に落ちた。



〜〜〜〜




カカシは仏頂面で木の葉の商店街を歩いていた。

ナルトと同じ家に住んでいるカカシは、外を歩けばみんなからナルトは?と聞かれる。

聞かれるたびにカカシは眉間の皺を深くし、機嫌は悪くなる一方だ。

そんなカカシに、もう誰も声をかけなくなった。


(ったく・・・ナルトがどこに行ったかなんてこっちが聞きたいよ)


本当は他でもないカカシ自身がナルトの居場所を知りたいのだ。

3日前に任務に行ったきりナルトは戻っていない。


連絡がないことにイライラしながらも、カカシは毎日ご飯を作ってナルトの帰りを待っていた。



カカシは家が見えてくると一瞬立ち止まる。

そして遠目から家を見てため息をついた。

部屋は真っ暗なまま。

今日もナルトは戻っていないと物語っている。


「・・・」


いつもより重い足取りで階段を上がると、


「ん?」


部屋の窓の横に一羽の小鳥が止まっていた。


(あの鳥はナルトの・・・!)


黄色い体を嘴で毛繕いする小鳥は、ナルトがいつも連絡用に使っている鳥たちのうちの一羽だ。

黄色なんて目立つから危険だと言ったのに、


『これならオレってすぐわかるだろ』


そう言って自分の髪をひとつまみしたナルトを思い出す。



カカシは駆け足で小鳥に近づいてその小さな体を掌に乗せた。


「あれ・・・手紙持ってないじゃない」


いつもはその細い足に紙切れがついているのに、今日は何も持っていない。


「お前何しにきたのよ・・・」


ナルトのことだからうっかり手紙をつける前に飛び立たせてしまったのかもしれない。


カカシが落胆していると、毛繕いをしていた小鳥がパッと顔を上げた。


「ッ!これ・・・っ!」


カカシは思わず小鳥の顔を指先で掴んだ。

小鳥の嘴には、微かに血がついていた。

よく見れば毛繕いをしていた羽にも赤く固まった血がついている。


クン、と鼻を利かせれば微かに血が混じったナルトの匂い。


「―――ッ!!」



カカシはなぜナルトが連絡もなく3日も帰らなかったかを理解した。


ナルトは帰らなかったんじゃない。


帰れなかったんだ。



(・・・ナルト!)


ナルトが自分を呼んでいる。

そう確信したカカシはすぐさま掌の小鳥を解放した。


小さな羽を目一杯羽ばたかせて小鳥は空へ飛び立つ。

それを逃さないように目で追いながら、カカシは走り出した。



(間に合ってくれ・・・!!)









***
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