短編
□勝ち負け(後編)
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翌朝はとても綺麗に晴れ渡った青空が広がっていた。
「んーっいい天気!」
テントから出たサクラが大きく伸びをする。
その後に続いて出てきたナルトは、手際よく出発の支度をするカカシに視線を向けた。
『好きな人ってこと……?』
『そうだな』
昨夜の会話を思い出す。
あれから結局寝れなくて、ぐるぐると頭の中を巡っていたのはカカシが誰のことを好きなのかということばかり。
そして今もそれは続いていて。
(好きな人って誰なんだろ……)
ナルトは荷物をまとめるカカシの背中を見つめる。
思えばこの一週間、カカシの背を追いかけてばかりいた。
すぐにいなくなってしまうから、必死で見失わないように追いかけては逃げられるの繰り返しだった。
……でもそれも今日で最後。
今日は、あの約束からちょうど7日目だ。
カカシを追うのも、今日で終わり。
(勝負には負けたくない。だけど、素顔を知ることが怖い……)
ナルトの心には迷いが生じていた。
昨日までとは全然違う意味で、だ。
カカシに想う相手がいると聞いて、ごまかせないほどに揺さぶられた。
心の奥底にしまいこんで、ずっと見ないようにしてきたある感情が。
その感情がナルトの勝負への決意を妨げる。
カカシの素顔を見るのが怖い。
だって、見たらきっと……。
(もっと好きになっちまう……)
好き。
カカシのことが、仲間としてではなく特別な存在として好きだ。
きっと本当はずっと前から好きだった。
見ないフリをしてきたのはナルト自身叶うわけないと心のどこかでわかっていたから。
それなのに──……
『恋人にしたい相手はいるけどね』
あんな話……。
決定的に無理だと言われたも同然なのに、あの瞬間に確信してしまった。
カカシが誰かのものになるかもしれないと思ったら、いてもたってもいられないほど動揺が全身に広がって。
“誰のものにもならないで”
強くそう思った。
「ナールト、出発するぞ」
「ハッ……」
気付けばカカシがこちらを見て出発の合図を出していた。
ぼんやりとした様子のナルトに、カカシは訝しげに眉を寄せる。
「お前、寝てないのか?」
「えっ、……」
「クマできてる」
そう言って、カカシはナルトの目の下を親指の腹でそっと撫でた。
触れられた箇所から熱が広がるような感覚に陥ってナルトは慌てて顔を背けた。
「ッ……だ、大丈夫だってば! オレちゃんと寝たし!」
認めてしまったこの感情は、表に出してはいけないものだ。
「オレ先に行くから」
ナルトは無理やり笑みを貼り付けて、カカシに背を向けた。
「……」
走り去るナルトに聞こえない声でカカシは呟く。
「……今日で最後だな」
薄い口布を軽く引き上げて、カカシもまた任務へと歩を進めた。