短編
□勝ち負け(後編)
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無事に任務を終わらせたカカシ班は、里へ着くと最後の打ち合わせをした。
打ち合わせと言ってもアカデミーで言うところの帰りの会のようなもので、ものの数秒で解散の流れとなる。
「俺は報告書を出すから、サクラとナルトは真っ直ぐ帰るように」
「「はーい」」
「じゃここで解散!」
カカシはそう言うとその場で煙と化した。
残ったサクラはすぐさまナルトを心配そうな顔で振り返る。
「あんた、全然寝てないでしょ」
「えっ」
「カカシ先生は騙せてもあたしは騙せないわよ」
ガシッと両肩を掴まれてナルトは大きく仰け反った。
「サ、サクラちゃん近……」
「寝不足は万病の元!」
持ってきてよかった、と得意げな笑みを浮かべたサクラは、大きく黒い粒を取り出した。
それを見て、ナルトは元々血色が悪かった顔色をさらに青くさせる。
「も、もしかしてソレ……」
「睡眠薬よ。これ飲めば強制的に深い眠りに落ちるから次に目が覚めたらかなりスッキリできるわ」
にっこりと笑うサクラは天使のようだが、その手にある薬は強力な効果があることをナルトは知っている。
味もさることながら、こんなもの(言ったら殴られるが)飲んだら何時間眠り続けるかわからない。
今日は勝負が決まる最後の日だというのに───……。
「い、いいってば! オレなら大丈夫!!」
「あんたの大丈夫とカカシ先生の言い訳は聞き飽きたのよ!」
「むぐっ」
無理やり口の中に放り込まれたそれは、想像通りめちゃくちゃまずかった。
「うっ……ま、まず……」
「ほらちゃんと飲んで!」
飲めと言うならもっとましな味になるように改良してほしい。
サクラに水を流し込まれてナルトは涙目で無理やり薬を飲み込んだ。
〜〜〜
報告書を上げたカカシは、のんびりと自宅への道を歩いていた。
行き交う人の中に、ナルトの気配を探りながら。
「……」
もう陽が傾き始めている。
約束の1週間は、あと数時間で終わりを迎えようとしていた。
『……………こ、恋人とかいんの?』
『……恋人?』
カカシが恋人にしか素顔を見せたくないのではないかと心配していたナルト。
あの時カカシは恋人はいないと答えた。
だからこの勝負を諦める理由はなくなったはず……。
てっきり任務が終われば全力で勝負をしかけてくると思ってこの後の予定は全てあけておいたのだが、カカシの予想に反してナルトは一向に姿を見せない。
『ま、恋人にしたい相手はいるけどね』
まさかあの言葉が何かナルトを止めてしまったのだろうか。
(……いや関係ないな)
自分の考えに軽く首を振る。
誰を恋人にしたいかまでは言ってない。
そもそもカカシの想い人が誰であろうとナルトには何の関係もないことだ。
たとえそれがナルトであっても。
そんなことを思いながらいつもよりゆっくりと歩いた帰り道だったが、気付けば自宅は目の前だった。
このまま自宅への扉を通り抜ければカカシの一日は終わる。
「……」
(ま、そんなもんだよね……)
カカシは自宅の鍵を取り出して階段を上った。