短編
□甘いウソ
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「ナルト、これあげる」
任務の後、珍しく声をかけられたと思ったらふいに手渡された包みにナルトは目を丸くした。
「え、オレに?」
「そ」
ナルトは首を傾げた。
なぜなら今日は特にナルトの誕生日でもなく、イベントがあるような日でもなく、至って普通の日だったからだ。
何かを物をもらう理由など全く思いつかない。
チラリと目線を上げてみるも、包みを渡して来た本人はニコニコといつも通りの読めない表情。
表情と言っても見えてるのは片目ぐらいだが……。
「……なんで?」
「え」
「なんか気味わりーってば。誕生日でもないのにプレゼントなんて」
ナルトは包みをそのままカカシへ押し返し、スタスタと背を向けて歩き出した。
今度はカカシが目を丸くしてナルトを追う。
「ちょ、待って待って!せめて中身見てからにしてちょうだいよ!」
「え〜カカシ先生がくれる物なんて怪しすぎるってばよ」
「お前失礼だね……」
軽く傷ついた顔でカカシはもう一度ナルトに包みを渡す。
「別に怪しいものなんて入ってないよ。ほら開けてみて」
ね、と念を押すように微笑まれてナルトは仕方なくそれを受け取った。
そろりそろりと包み紙を広げると、
「いー匂い……」
中からは甘酸っぱい香りと共にと真っ白な丸い大福が出てきた。
手で掴むとまるでマシュマロのようにふわふわとした感触で、周りについた粉がハラハラとナルトの手に落ちる。
「いちご大福って言うんだよ。おいしそうだったから、ついね。でも1つしかなかったから他の奴らには内緒だぞ」
カカシの説明を半分ぐらいは聞き流してナルトは一口でそれを頬張った。
そして目を見開く。
「んーーーー!!!」
口の中でみずみずしい苺と上品な白餡が混ざりあう。
その2つを包む大福の餅は溶けるような柔らかさであっという間にナルトの舌の上で無くなってしまった。
後を引くおいしさにナルトの目がキラキラと輝く。
「こんなの初めて食べたってば!!」
知ってる。
とは言わずカカシはナルトの嬉しそうな顔に内心ホッとした。
好きじゃないかもしれないとも思ったけど、やっぱり買って正解だった。
「たまにはこういうのもいいでしょ?春だからね」
「うんうん!先生もう1個食べたい!」
「1つしかなかったって言ったでしょうよ」
ナルトは唇を尖らせる。
最初の怪しんでいた気持ちはカケラも残っていなかった。
「なぁなぁカカシ先生、今のって──」
言いかけたナルトの口にふいにカカシの手が触れる。
その温度に思わず固まった。
視線が絡み合い、動けなくなる。
「…………」
「……、…………」
長いような短いような、熱いような心地良いような。
不思議な感覚に陥って、カカシから目が離せない。
「…白いの、ついてる」
「…………へ?」
ぐいっと拭われた口の端。
カカシの指先には白い粉がついていた。
「みんなにバレちゃうからね」
それを一瞬だけマスクを下げて舐めとると、カカシは口の前で人差し指を立てて綺麗に笑った。
「……っ」
流れ技のような一連のカカシの動きがなぜか艶めいて見えて、ナルトは息を飲む。
たった一瞬のことなのに、なぜこうも目を奪われるのか。
(やっぱイケメンは違うってばよ……)
それがイケメンだからではなく、カカシだからなのだとまだナルトは気付かない。
そして、
(……本当は1つだけじゃなかったんだよね)
いちご大福が本当は店先にいくつも並んでいたこともナルトは知らない。
ナルトにだけ買ってきたことも、その意味も。
「今日ぐらいは許してね……」
今日は四月一日だから。
小さく甘い嘘で、下心を隠して。
カカシはナルトに“特別”をあげるのだ。
いつか想いを告げる日が来るまで、今はまだ先生と生徒で。
春の風の中を並んで歩く2人の距離は、少しだけ縮まっていた。
***
読んでいただきありがとうございました(*^▽^*)
とってもおいしいいちご大福を食べたのでナルトにも味わってほしくて!笑
2018.4.3