□月に導かれ、
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外を眺め、あの方を想う。
最近よくくるお得意様であるあの方。

「早く、おいでくださらないかな。早うお顔を見たくてなりません。」


少し欠けた月に向かい手を合わせ祈る。







此処は遊郭。今宵も殿方の為に自分を品物といたす。

此彼は店1番・・・いや、この地域1番の遊男。ハイド。
絹のような髪、陶器のような肌を持つ彼を誰しもが1度は抱いてみたい、と思うほどであった。
もうひとつ、彼にはどの遊男には持っていない魅力があった。
それは彼の歌声。
彼の歌声はまるで天使のような声で、その為に指名する方もしばしばであった。


その彼が今、どの殿方にも付かず、一人部屋にいるのか。
それは、最近彼を贔屓にする殿方が現れたからであった。


「私は、あの方以外の殿方に付くつもりはごさいません。」


そのような我が儘が通用するわけはないのだが、その方というのが、国でも有名な資産家。
その方からの頼みもあり、店の者は他の殿方にハイドを付かせるわけにはいかないのだ。

もっとも、ハイドは彼からそういった頼みが店にあったなど知らない。
ただ、自分は店1番の売子だから我が儘がきいているのだと思っていた。



「ハイド、あの方が来られましたぞよ。」

主である女主人が呼び来た。


その言葉にハイドは満面の笑みを浮かべ、主の後をついて行った。

−コン、コン、−


「北村様、ハイドでございます。」

主に連れて来られた部屋をノックし、名乗る。


「入れ、」

その一言を聞き、ゆっくりと戸を開けると、縁側で外を眺める彼がいた。

「待ち侘びたか?ハイド…」
「はい…、けん様。」

「けんちゃんでよいと申したろ?」
「しかし、そのような話方だと、呼びづらいのです…。」


「あぁ、悪かったな。ハイド、おいで。」

先ほどの堅い話し方ではなく、和らい話し方になり、手を広げ、ハイドを招くと、ハイドは駆けていき、腕のなかに包まれた。

「愛しております、けんちゃん…。」
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