オリジナル小説

□魔王、悩む
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 止めた止めた辞めた!

 シヤープなデザインの城は魔王城と呼ばれ、文字通り魔王の住まう城になる。その魔王城に叫び声が響き渡る。謁見の間、玉座に第七十七代魔王が座っていた。否、今は立っている。大臣は王の叫びに盛大な溜息を付いた。
「今度はなんですか」
「魔王をやめるぞ!」
「退位をなさるおつもりで?」
「そんな簡単な話しじゃない!」
 美貌の魔王は、白魚の様な細長い人差し指を立て、横に振った。
「魔王自体を止めるのだ。何が悲しゅうて玉座でぼーっと座ってるだけで伝説の勇者とやらが勝手にやって来た揚句、身勝手な理由で私が殺されにゃいかんのだ」
「はぁ。その場合必ず王様の前に四天王(若しくはそれなりの手下)が控え、それらを倒さなければなりませんね。しかもやたらと王様に会うまでに長い迷宮を抜けなければならないし、城もこんなに綺麗じゃありません」
 大臣の言葉に頷きながら魔王はまた玉座に腰を下ろした。
「この城を迷宮に作り替えるだけで天文学的出費が予想されるし、罠を仕掛けるのも大変だ。毒沼なんて私らでさえ近寄らないしダメージも受けるとゆーに、そんなものほいほいと城の中に設置出来る訳なかろう」
 チリ一つ落ちてない磨き上げられた大理石の床には赤絨毯が引かれ、大きく取られたステンドグラスからは柔らかな光が床に鮮やかな模様を描き、外から聞こえる小鳥の囀りは長閑だ。春の木漏れ日は暖かく室内にいると、眠くなってしまう。
「こんなに居心地のよい城を改造してなるものか!」
 魔王はそういうと長い指で顎を支え、ふうっと溜息をついた。
「そんな予算、ありませんよ」
「当たり前だ。七十代魔王借金をようやく無くしたばかりで、貯金なんぞないわ」
 頭痛の種、七代前の借金。これを巡り、内乱まで勃発したのだ。第七十代魔王は姿形も異形中の異形。そしてセオリー通り、世界征服せんと人間に喧嘩を売ったのだ。
 世界征服なんて馬鹿げた事をせずとも、人間とは友好関係を結べるはずだと側近達は窘めたが、聞く耳もたず七十代魔王は幼い頃に受けた傷(人間の子供に石を投げられ、う(以下自主規制。お食事中の方はすみません)といじめられた)を根に持ち、人間に逆恨みいや、むしろいじめっ子以外はとばっちりになるのだが成人(?)した七十代魔王はその強大な力を手に、人間絶滅世界征服宣言をした。
 もちろんその宣言に対し、人間だって黙ってやられるわけではなくかねてより世界の危機に立ち上がるべく代々受け継がれてきた勇者の血を引く者が立ち上がった。七十代魔王は伝説の勇者と対決するために巨大な地下迷宮(ドワーフに頼んだところすさまじい迷宮が出来上がったが、まだまだ彫りたりないと現在も迷宮は堀進められているという噂がある)と、城を作ったのだ。民の貯めた税金使って。大赤字を出したあげく、第七十代魔王はあっさり勇者とその仲間達にやられた。残ったのは膨大な借金と迷宮付きの城。
 しかも、七十一代が希代の放蕩三昧馬鹿魔王であったが故にただでさえ逼迫し、生活すらままならない民に重税を課した。重税に苦しんだ民による謀反と反乱が起こり、内乱勃発。七十二代からやっと節約貧乏生活でこつこつ借金(まだドワーフ達は堀続けているらしい)を返し続け、七十七代にして借金全額返済となったばかりであった。
「ラスボスといったら異形か美形しかいない上、やたらめたら強く、しかも平均3.4回は脱皮(?)をしなければならず、最後はなんだかわからないモノになるのが、一般的だったが、七十代はすでに最初から最終形態ラスボスの姿だったからなぁ」
 しみじみと魔王が言えば、大臣も頷いた。
「何がなんだかわからなすぎて、う(以下略)でしたから」
 ふたりでしみじみしながら、あの頃の思い出に浸る。現魔王も生まれたばかりであったがその時の事はよく覚えていた。
「いかんいかん。なにはともあれ、私はまだ死にたくないのだ。第一、伝説の勇者ってなんだ。伝説なのに、世襲制か? そもそも伝説って言うからには、人々の間で口伝で伝わる様な、お伽話のよーなのを伝説って言うんじゃないのか?」
「まあまあ、世襲の方がなにかと便利なんでしょう。例えば必殺技の伝承とか」
「必殺 こむら返り が、か」
 冷静につっこむ魔王に、大臣は視線を反らした。しかし今まで六人の魔王が勇者に倒されてきたが、必殺技はこむら返りだった。
「そんな必殺技で倒されてたまるか」
 文句を言う、魔王に大臣はうーんと唸った。
「しかし、廃業なさったら何をされるんですか?」
「農業」
 素晴らしい案だと言わんばかりに、威張って言う魔王にらちがあかないと、大臣はとどめをさした。
「民はどうなさるんですか」
「うっ」
 魔王の悩みは続く。

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