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□夢
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あぁ神様。私は夢と現実ぐらい分けて生きてきたはずです。


誰かが後ろから追いかけてくる夢。
最近そんな夢ばかり見る。じりじり迫ってくる手は私の腕を掴もうと伸ばされる。
その手に掴まれる、そう感じた瞬間にいつも目が覚める。


「え、やだなにそれ。超こわいじゃん」

夢の内容を聞いた友達の裕子はそういう。

「でもねぇ、目が覚める直前に顔が見えるんだけどその顔がさぁ」
「はいはい、あんたの推しの顔なのよね」

もう1人私の隣で話を聞いていた智子はあきれながらジュースのパックをストローで吸い上げる。
畜生、美人はなにやっても様になるのぅ。名無しってばまだ夢みてるんじゃないのー?と笑う裕子と智子は双子だ。つまり何やっても二倍かわいい。

それはさておいて。夢に関してはほんとにほんとなのだ。
私の今一番推しているハイキューの松川一静その人の顔をしているのだ。

妄想のしすぎだろうか。ただ好きなキャラに追いかけられているという夢は素敵なものだ。夢の私はなぜあんなに逃げ回るのかが謎だけれども。


「ほら、めぇ覚まさないと。現国のゆうこちゃんは私ほどやさしくないぞぉ!」

いつの間にか鳴っていた予令は次の授業の始まりを意味している。
現国のゆうこちゃんは名前と同じでかわいらしく優しい先生だが居眠りやおしゃべりが多い生徒には笑顔で大量の課題プリントを投げ渡す天使だ。それだけは避けたい。

「はーい、おはようございます」

今日も朝焼けのさわやかな空気をまとわせながらゆうこちゃんの入場。
授業に集中しようとするか。










授業は終わり、放課後。
裕子と智子と三人でカフェにパンケーキを食べに行こうと話していたが部活のミーティングがあるとのことで1時間くらいの時間が空いてしまった。

「ごめんね、パンケーキ代二人で出してあげるから!」
なんて言って駆けていった二人にため息。君らの部活ミーティング余裕で2時間超えるじゃんよぉ!と声を背中に投げつけたけど無駄だろう。
今日は幸いにも金曜日だし寛大な私は待っててやろう。

暖かい西日を顔に受けているとなんだか睡魔が襲ってくる。
どうせ2人は教室に荷物を置いているから寝てても起こしてくれるだろう。それか通りがかった先生がきっと早く帰れーと文句を言いながらもゆすってくれる。
いつもと同じ様に起こされることをわかりつつ、まどろみにしたがって机に顔を突っ伏した。











―暗転―

ぱ、と目を覚ますと夕焼けも終り紫がかった夜になりかけた教室の中。

「(え、裕子も智子も私スルーして帰ったの!?)」


なんて非常、なんて冷たい。私君らが終わるの待ってたんだぞ!
そんな文句をいいつつ、立ち上がると違和感。あれ、私たちの教室ってこんなんだったっけ。

窓際に立ち、グラウンドを見下ろす。
違う、私たちの教室は三棟ある内の真ん中の二棟目で隣の棟の間にはよくお昼のスペースに使われる中庭と体育準備室しかない。おかしい、私の学校じゃない。


ぐらつく足をなんとかぐっと踏みたえる。ここはおかしい。兎に角外に出なくては。
がら、と引き戸を引き廊下へ。すぐ右を見れば階段が見える。
さっき上から見たら三階程の高さだった。これならばダッシュでかけ下りればすぐ外に出られるだろう。そう思い、階段へ足を進めた時だった。


「やっと起きたの?」


聞きまくった画面越しの声が響いた。
振り返った私の顔は裕子と智子がいれば爆笑間違いなしのさぞ間抜けた顔だっただろう。
固まる私の目の前には推しの松川一静が立っていた。

普段の私なら喜びあがって飛びついてるだろう。
ただ今は違う。違う場所、違う教室、いるはずの、存在するはずのない人。
恐怖が私の頭の中を駆け巡り支配する。


「ねぇ」

そう言いながら伸ばされかけた手を見て夢を思い出し。



「いやぁあああああああ!」


私は夢の中の私のように駆けだしていた。

何度も見ていた夢。
何度も追いかけられた夢。
何度も掴まれそうになった夢。

いつもは目が覚めておしまいな夢。今日は違う。



「つかまえた」

握られた右腕に走った熱さは私のものかそれとも――――。












18/03/06
まっつんこわい


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