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□食べ物の恨みは恐ろしい、?
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天丼うな丼牛丼どれにしよ。
軽い足取りで生徒が溢れる食堂に紛れ込む。
カロリーが高く、年頃の空腹を満たしてくれる昼食を求めて食券機の前で悩む。どれも美味しそ

う。決められない。



「あっれぇ??名無しチャンじゃない?」


ずぅんと高い新長の隣のまた高めの赤い髪をしたその人。



「あーー!天丼せんぱいじゃないですかァ!!」

「もう!天丼じゃなくて天童だヨ!」


ぷんぽこと効果音が付きそうな怒り方をしているのは私の一つ上の天丼先輩。
ほんとは天童、って名前らしいけど知らない。天童より天丼のがいーもん!


「ほんと名無しちゃんはいつまで経ってもちゃんと名前を呼ばないネ」


下がり眉になった顔をみせながら天丼先輩は困ったように笑う。


「先輩がわたしの狙っていた白鳥沢限定天丼の期間限定ラスト一食をとったこと。わたしまだ根

に持ってますからねぇ!」


「俺もねちっこいけど名無しちゃんもなかなかだよねぇ…」






天童先輩が天丼先輩になってしまったのもちゃんと理由があって、それは去年の今頃の食堂での

出来事だった。
私は今と同じように食堂でメニューを決めあぐねていた。その時見えた"今季限定天丼"の文字。
瞬間に感じた、今日のお昼の私の胃の中はこの子が満ちているべきだと…。

わくわくし食券機に並ぶ、ひとつ前に進む度高まる胸の鼓動。
とうとう一つ前までに順番は迫りどきどきわくわくの体験をしていた私の前で―


「おばちゃーーん!俺期間限定の天丼ひとつネ!」


この天丼先輩は私の狙っていた限定天丼を頼んだのだ。


「あらぁ!よかったわねぇ、天童君。今日で期間終わりだし君で最後のひとつよぉ」

「ワォ!やったね!」


喜ぶ前の先輩ときゃいきゃいする食堂のおばちゃま。
だけどわたしの目の前は真っ暗になったと言っても等しい。
たかが天丼、されど天丼。限定もの、期間もの、ラスト一つ。

私のなかで一つの意志が芽生えた。

天童、いや天丼先輩許すまじ



「私のおなかはあの日の天丼を求め続けている…!しかし!あの日の天丼は二度とは帰ってこな

い!!!」


「そりゃ期間限定の売り切れ御免天丼だからねぇ」


「なので天丼先輩を許せる日がくればちゃんと名前で呼ぶと決めております」


名無しちゃんたら執念深ぁい…としょぼくれる天丼先輩。
先輩だからってかわいい声出したって許しません。


「覚先輩って呼んだっていーんだヨ?」


「今のところ呼ぶ必要性もなにもないのでご遠慮「美味しい天丼食べさせてあげよっか?」…」



しょぼくれ顔を作りながら私の顔を上から覗き込んでくる先輩からの提案。

甘いですねぇ…!!


「ハッ!!!!!このあたりの天丼名門店や、メニューの一部に置いてある店。たまにしか出し

てくれない店などなど網羅した私にまだ食べたことがない天丼が与えられるとでm「あるよん」

え。」


大きい眼をまたくりくりっと動かしながら「名無しちゃんも食べたことないおいし〜い天丼出

すとこ連れてってあげるよ?」とまた私を見る天丼先輩。

ふふふ…面白い。


「ふふふぅ…面白い。その提案乗ってやろうです!!!」


「じゃあ名前」


「覚悟しやがれです覚先輩!!!!!!!」



良い子だネーと覚先輩になでられる手を跳ねのけるが何度も撫でてくる手はもう放置でいいや。
そんなことよりまだ見ぬ天丼に私の思いは馳せていった。









食い物の恨みは恐ろしい。







とは限らない
18/03/07


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