短編:inzm

□言葉と気持ちは反比例
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「死にたい、死にたいんだ」


私の腹に、首に腕を絡ませて夜桜は呟く。掠れた声で、小さく。死にたい。死にたいと繰り返す。まるで呪文。

夜桜の縋る相手、本当に縋りたい相手は私なんかじゃなく自身の母親。
しかし、彼の母は彼が自らに対する異常さに恐れをなして逃げたそう。夜桜に消えそうにない傷跡を残して。


「ね…死んでも、いい?」


ぐるり、と世界が回り私は床に頭を叩きつけられ押し倒される。目の前には夜桜、だけど頭を強かに打ったせいか少しボヤケていた。ねぇ、といいながらさらに近づいてくる夜桜。私たちの距離はあとわすかで唇が触れる距離。
そんな距離で夜桜の甘い吐息、なんて甘美なんだろう。夜桜のさらさらしたシニヨンを崩さぬようなぜる。あぁ、綺麗。こんなに綺麗なのを捨てるだなんて。


「夜桜が、本気でそうしたいのなら。私なんかじゃ止めれない…けど」


けど…?と聞く夜桜の大きな瞳が揺れ動く。あぁそれも綺麗ね。止めるのが勿体無いくらいゆらゆら灯火の如く揺れる瞳。
でも止めなくちゃいけないわ、だって私が映らないんだもの。


「夜桜が死んだら、私も死ぬかもね」

夜桜にそう微笑めば瞳の揺らぎが止まる、やっぱり少し勿体無い。


「じゃ、名前の為に今は生きててあげるよ」


押し倒された際に服がズレて露わになっていた鎖骨に紅い華が咲く、くすくす笑いが漏れだす夜桜の唇が触れた場所から満開の華が。




ー言葉と気持ちは反比例ー
(望んで、僕のこと。捨てないで、欲しがって)



死にたいは助けて。死んでもいい?って聞くのは止めてほしいの合図だと思う。弱音吐かない人ほど自殺しやすそう。

111229

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