――オレはこの曲に何度も励まされた。


今にも消えそうな温かな笑みを浮かべて彼はそう言った。
確かにいい歌だった。
詞(ことば)が、こいつらしいなと思った。
それと同時に羨ましさを感じた。
こいつに対してではない。
曲に対してだ。


「なんか意外だ」


その歌を聞いた直後の感想。
銀の瞳が不思議そうに瞬いた。


「意外?」

「そ。歌に励まされたってのが」

「……おまえはオレをなんだと思ってるんだ」

「シルバーだろ」


目的の為には手段を選ばず、ただひたすらに突き進む。
多少の私怨を挟んでも、その他の情は挟まない。
何より、揺らがない、銀の双眸。
多少印象は変わりつつあるけれど、それが彼だと、オレはそう思う。
返ってきたのは溜め息。
なんでだ。


「それはそうなんだが」

「不満なのか?」

「不満……ではない」


なんだか不毛な方向へ転がりそうだったので、話題をさりげなく転換する。


「でもよぉ」

「なんだ」


手を伸ばして、シルバーの頬に触れる。
額が触れそうなほど、顔を近づけた。


「歌に励まされるより、オレを支えにしろ」


シルバーが何か言うより先に、口を塞いだ。
唇の隙間へ舌を差し込んで歯列を割って、舌を絡め取る。
いつもされていることを、そのままそっくり仕返す。
くちゅ、と水音がした。
――あ、やばい。
そう感じた瞬間、攻勢が逆転する。
舌を絡め取られ、甘く吸われる。
手管手練のその技量に翻弄され。
口が離れた頃には、息が軽く上がっていた。


「支えにはしない」

「何でだよ」


睨みつける。
シルバーは顔色を微塵も変えてなかった。
その事実も腹立たしい。
銀の瞳が、細められる。


「支えなんかではもったいないだろう」

「は?」

「おまえは、オレの存在意義だから」


思考がフリーズする。
何その殺し文句。
いや普通臭すぎて言えないだろそんなの。
なのになのに。
心拍数が、やばい。
視線を逸らす。


「……っ」

「…ゴールド」

「な、んだよ」

「……いや、なんでもない」


そう言ってシルバーはふわりと笑った。



*End*

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