序章











――生徒会室。
そこには、四つの人影があった。
いずれも特徴的な頭をしていて、みな難しい顔をしていた。


「……ほんとにこんな条文が可決されるとわね。どうせ教育委員会のごり押しのくせに」

「…ご丁寧なことに、自分達の名前ではなく生徒会の名前を使うくらいだ、余程教育委員会の名で発表したくないようだな」

「そりゃそうですよ。こんな計画……でもほんと生徒は被害者ですよね。ゆとり教育の次はこれだなんて。……レッドさん、どうします?」


青、緑、黄色の六対の瞳が一人の生徒に注がれた。
彼はしばし思案してから、溜め息をつく。
赤い目には諦めの色が浮かんでいた。


「教育委員会が決めたんだ。今更どうしようもないよ」

「諦めるのか、レッド」

「まさか」


レッドと呼ばれた男子生徒の目に、諦めの色から一転して、鋭い光が宿る。


「このまま俺らが黙ってるわけにはいかないよ。こんな条文、受け入れられるはずないんだから」


――――


今日より、この学校に以下の条文を施行致します。
生徒は十分に理解した上で、学校生活を過ごすようにしてください。

【疑似恋愛強制執行条文】

当校は恋愛事情が殊更少ないため、恋愛を促進するための救済措置であります。
期間は今日から半年間です。

!規則厳守!
@初めの言葉はよろしくお願いします
A別れの言葉はありがとうございました
Bふる言葉もありがとうございました
C期限は二週間以上
D本当の恋人のように接しなさい
Eよって色々試しなさい
Fキスはすること

※異性、同性等の性別は問いません。
※規則が守られない場合、それなりの罰則を生徒会主体で行います。

生徒会執行部


――――


学校の掲示板には人だかりが出来ていた。
一体どうしたんだ。
人混みを掻き分けて、なんとか掲示物を見える距離まで近づく。

白い紙が、一枚、緑色の掲示板の中央に貼られていた。

目を細めて、文字を読む。


「……………」


読み終えて、オレは思わずつぶやいた。


「この生徒会、頭沸いてんじゃねぇ……?」


こんな無茶苦茶な条文、聞いたことがない。

疑似恋愛強制執行なんていかつい言葉を並べているが、要はむりやり恋愛経験を積め、っつーことだろ。

そんな馬鹿な話、あってたまるか。
その逆の話、例えば勉強の妨げになるからっつって恋愛禁止法とかならまだ分かるような気もすっけど。

でもこんな条文、生徒会だけで実行できるもんなのか?
いや無理だろ。
先生達がまず許可しねぇはずだ。

人混みから抜け出しながら、オレは素早く頭を回転させた。

教育委員会とか一枚噛んでんじゃねーの?
……ゆとりの次はこれかよ。
ほんとにお上の考えてることは意味分かんねーな。


「ま、どーでもいいけどよ」


――オレは屋上で寝れたら、それでいい。
完全に人混みを抜け出して、オレは屋上へと向かった。





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