7.
心停止状態。
ならぬ、思考停止状態。
なにこれこの状況。
なあシルちゃんお前、どうしちゃったの!?
「ここだと人目が多すぎる。ついて来い」
オレが、おかしいのか?
こいつが好きすぎて、おかしくなっちまったのか?
分かんねぇわけ分かんねぇ。
こいつが今何を考えてんのかどんな気持ちなのかさえ、分からねぇ。
分かんねーことだらけだ。
分かっていることはと言えば、オレのこの手を引いているのはシルバーだってことぐらい。
ほんとに一体どうしたんだこいつは。
かしましい教室を抜け出して、連れてこられたのは、屋上だった。
え……っと、この状況ってまずくね?
だって、抱きしめてられて、人目が多すぎるからと言われ、屋上に連れてこられて、二人きりっていう、このパターンって、
――よくある告白のパターン、じゃねぇか。
「……ゴールド」
「…………」
――信じらんねえ。
密かに焦がれていた銀の眼が、こんなに間近にあるなんて。
信じられるはずがねえ。
澄み切った青空までもがなんだか嘘臭い。
おかしいのはオレじゃなくて、絶対こいつだ。
「ゴールド」
「…シル…バー…」
「…………」
「……っ……!」
吐息がふれる距離。
シルバーの意外に長いまつげが見える。
これって、やばくね?やばいやばい!
顔が、異常に近い。つか近過ぎだろ!!
どうするオレ、逃げろ、逃げるんだ――背中が壁にぶつかった。
思わずぎゅっと目をつぶる。
オレ、絶体絶命――
「おい」
「……?」
おそるおそる目を開ける。
視界にはいつもの見慣れた屋上の風景。
え?
横を見るとシルバーはオレ同様に壁にもたれていた。
やつの薄い唇が弧を描く。
「……キスされるとでも思ったか?」
「………………」
神様こいつ、ぶん殴ってもいいですか。
オレは拳を握りしめた。
っていうかテンパってたさっきまでの純情なオレを返せ。
ほんっとにちょームカつくんですけど。
ふつふつと怒りが沸いてくる。
この仕返しは必ずせねばなるまい。
「……なぁ」
「なんだ」
「この、あー……疑似恋愛なんちゃら条例ってやつ、ルールがあるって知ってっか?」
「……ルール?」
ピクリとシルバーの眉が動いた。
どうやらやはり、知らないようだった。
シルバーは結構な頻度で本を読みながら校内を動き回る。
というか掲示物そのものに興味がないようで、とりあえず、無視、なのである。
「そ。知んねーんなら教えてやっけど」
「……別に知らなくとも支障はない」
「それがあるんだなー、支障」
にやにやと挑発的に笑ってみる。
シルバーの表情が僅かに強張った。
「知りてぇ?」
「……いや、別に」
即答できねぇってことは、キョーミあるっつーことだぜシルバーちゃん。
心の中でそう呟いて、ぐっと顔を近づけ、オレは口の端だけで笑んだ。
「――必ずキスをすること、だぜシルバーちゃん」
「は……?」
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