WORKING!!


□先輩改善作戦
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オレは一ヶ月ほど前から、『ワグナリア』というファミレスでバイトを始めた。

初のバイトで、分からないことばかり。
最近では失敗する数も減ったが、まだまだベテランには程遠い。

まあ、彼女よりは断然マシだが。


「山田!お前、また皿を割ったな!?」


「た、小鳥遊さん…っ!や、ややや、山田じゃありませんよっ!」


もう日常茶飯事だよなぁ。
小鳥遊もよく世話を焼いているもんだ。

叱り、叱られている二人を横目で見て、オレの中では他人事だと流す。

余計なことに首を突っ込んでも、ろくなことなんかないからな。

さっさと仕事に戻ろうと立ち上がると、オレの後ろに誰かが隠れ、服を掴まれた。

いや、うん、誰かなんて分かってるんだけどさ。


「……山田先輩、オレ、そろそろ休憩終わるんだけど。」


「じゃあ、山田から小鳥遊さんを追い払ってください!」


オレの目の前で眉間に皺を寄せている小鳥遊を指差す山田先輩。

うっわぁ、スゲぇ黒いオーラ出してるよ、小鳥遊。

そんな小鳥遊と目が合うと、彼は深い溜め息を吐いた。


「悪い、神崎…。」


「いや、お前が謝ることねぇよ。……しっかし、大変だなお前も。」


後ろに原因の本人がいるにもかかわらず彼を労うと、涙を流しそうな勢いで苦労話を語りだした。

コイツもコイツで面倒くさいな…。

と、同級生である小鳥遊に呆れた視線を向ける。


「神崎さん、早く山田を助けてください!先輩の言うことは絶対ですよ!」


なんて横暴な先輩だこと。
まあ、こんな人でも一応オレの先輩だから仕方がない。

たとえ、オレよりバイト歴が長いクセにいまだちゃんと仕事がこなせなくても、数えきれないほどの皿を割っても、先輩ぶってるのになぜかオレに敬語を使ってきても、だ。

そう言うオレも、後輩のくせにタメ口だけどな。

なんとなくそうしているが、理由を言うとなれば、なんだかオレより年上って気がしないから。
どんな先輩でも敬意を払わなきゃいけないのは分かってるけど、相手も気にしてないみたいだから、よしとしよう。


「あぁ、いけない、俺まだ仕事中だった。」


完全に聞き流していた苦労話は終わったらしく、小鳥遊は休憩室の出口へと向かって行った。


「おい、もういいのか?だったら山田先輩をどうにかしてくれよ。」


引っ付いたままの山田先輩を無理矢理ひっぺがして、小鳥遊の前に献上する。

「先輩を裏切るんですかっ、神崎さん!?」と、オレよりも幾分か小さな体をじたばたさせる先輩。

裏切るもなにも、彼女に味方した覚えはない。

そう思っていると、小鳥遊はにっこり微笑んで山田先輩を見た。目が笑ってない。


「山田、あとは後輩の神崎に叱ってもらえ。よろしくな、神崎。」


はい?

待て、と言えずに呆けてしまった俺。

なぜオレが山田先輩を叱らなければいけないんだ。
オレだってこれから仕事があんのに、まったくもって面倒くさい。

ちらりと先輩を見ると、悔しそうな顔をオレに向けてきた。


「神崎さんは山田の後輩なんですから、山田のこと叱ったりしないですよね…!?」


あぁ、なるほど。
山田先輩の後輩であるオレだから、小鳥遊はわざと任せたのか。

つまり、後輩から叱られるという屈辱を味わえと。

面倒を押し付けられたことには変わりないが、それもいいかもしれない。

ニヤリと口角が上がる。


「山田先輩の先輩である小鳥遊に任せられたんだから、しょうがないでしょう?……覚悟してね、山田先輩。」


顔を真っ青にした先輩を見て、これは効果があるかもしれないと、心の中で笑った。





先輩改善作戦―――





☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「山田が普通に仕事してる…っ!?」

「あぁ、さっきオレが叱ったから。」

「へぇ、思った以上に効果があったんだな。これで苦労が減る…!ありがとう、神崎!」

「いいっていいって。なんか楽しかったし、山田先輩しつけんの。」

「そ、そうか……(見事に立場が逆転してるな…)。」

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