10万打企画
□紫音様リクエスト
2ページ/3ページ
いやしかし反省しています。
ほんっとうに反省しています。
人がいい……いえ、イイ人である鍾会さんを生贄に捧げ、私は傷一つ負うことなく逃げ果せることが出来たから。
だからこうしてお菓子と救急箱を持って、お詫びに向かっている最中。
「鍾会さん鍾会さん」
コンコンと戸を叩いて呼んでみれば、戸の奥から傷だらけの鍾会さんが顔を出した。
「お前…!先程はよくも…っ」
端正な面持ちには不釣合いな傷が沢山。
ありったけの怒りを込めて睨まれるが、私は頭を下げながらスッとお菓子を差し出した。
「す、すみません。ほんとゴメンナサイ。あの、お詫びに…」
「お詫びだと?」
チラリと顔を上げて鍾会さんを伺えば、一度お菓子を一瞥して眉根を寄せ、「まあ」と扉を開けきった。
「入れ」
「失礼します」
「あの」
作ってきたチョコレートケーキを切り分けつつ、横目に傷だらけの武将さまを見てみた。
彼はケーキが珍しいのか、それをジッと見ていたようだが、私の視線に気付いたのか慌てて目を逸らされる。
「何だ」
椅子に座って足を組み、机に頬杖をつく鍾会さんは、まだ随分と機嫌が悪い。
あと顔色も悪い。
「負けました?司馬師さんに」
「ぐ…」
彼はバツが悪そうに目を逸らして、フワフワ(いやクルクル?)した髪をいじり始め、更に機嫌が悪くなった。
「英才教育、通用しました?」
「うっ、うるさい!元はといえばお前が…」
みなまで言わせず、小皿に分けたケーキを差し出す。
「お詫びです。どうぞ」
「……」
言葉を遮られ、もの言いたげな鍾会さんだったが、目の前の好奇心に負けたらしい。
ケーキをジッと見つめ、眉根を寄せる。
「……黒いな。食べられるのか?」
「多分」
急いで作ってきたものだから、味見はしていない。
でもきっと恐らく大丈夫。
「……」
ケーキと私を交互に見て、訝しげな表情を浮かべるが気にしない。
私は私で、包帯やら消毒液やらを用意して
「手当、していいですか?」
そう尋ねると
「好きにしろ」
と、そっけなく言われたから、勝手に手当させてもらうことにした。
そっけなく、というよりも、ケーキを初めて見るのか、そちらに釘付けになっているようで、返事に身が入らないというのが正しいのかも。
私が勝手に手当をしている間、鍾会さんは恐る恐る口にケーキを運んでいる。
かと思えば、ムグムグと咀嚼した後、何か衝撃的だったのか、先程のように後ろ髪がピコンと動いた。
やっぱあれ尻尾なのかな、なんて思って、思わず笑ってしまう。
美味しかったのか、一口食べた後は次々と口に運ぶ彼を見て、笑ったまま尋ねた。
「お味は?」
「ま、まあそこそこ…。お前が作ったのか?」
「はい。お気に召したのなら、また作りますよ」
「お前がどうしてもというならば、もらってやらんでもない」
なんだかこの人、ツンツンしたところが三成さんに似ているな。
なんて思うと、笑いが止まらなくなってしまった。