ゴールデンボンバー

□雨が降ったら猫がいなくなった
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「おーい、鬼龍院さーん?」





かれこれ4時間――

どんだけパソコンの前に座ってんだよ。




「鬼龍院翔さーん? そろそろ夕食を作ろうと思うのですが食べたいものはありますかー?」

「…………」




少しだけ開いたカーテンから外をちらっと見ると大分暗い。

もう、カーテンちゃんと閉めてっていつも言ってるのに。誰かが隙間からこっち見てたら怖いだろ。




私はベッドの上でうつ伏せになったまま手を伸ばしてそのカーテンを締め直して、もう一度パソコンの前に座るキリショーを見た。

キリショーってほんと上手いあだ名だと思う。言いやすいし。




「おーい。鬼龍院さーん。今日の夕飯何が良いですかーって聞いたんですけどー」

「…………」




無視かよ。おい無視なの?

彼女が家に来ててさ、しかも手作りの料理を作ってあげようとしてるのに?無視?

いや、別に今更"私と仕事とどっちが大事なのよ!!"とか聞くつもりはまったくない。この男はそういう男なんだ。何の期待もしてないしあぁもう好きにしてくださいって感じな訳で。





「それじゃぁ今日は納豆ご飯にしよっとー。作るの面倒だしー『マック」

「この間さ、すごいの買ってきたんだよねー。見てこれ! 納豆かき混ぜる用の棒!! すごくない?超良く混ざるらしいよ『マック!!」

「今日は贅沢に一人1パックずつ使おう!!『マーーーック!!!!」





はぁ。

はいはい。えーっと?納豆食べると舌が爆発するんだっけ?あぁ、それはコーラか。確か納豆食べるとこいつは舌が千切れ飛ぶんだった。

千切れ飛ばれても困るし。っていうか、ちゃんと私の言ってたこと聞こえてんじゃん。




「ほいじゃ買ってきやーす」




外寒いかな。

適当にハンガーに掛かってた上着を着て私は玄関を出た。安定のタミT。そしてスッピン。前髪ちょんちょりんだし。

いやね、私だって最初はキリショーに会う時化粧とかしてたよ?可愛い服だって着てみたりしたしさ、でも途中で気付いた。こいつにはそんなこと無用だって。ま。楽ですよね、実際。




マックに到着。

うわお、結構並んどるのー。急ぐ訳じゃないしいいんだけど。




というか、キリショーマック好きなのにコーラ嫌いって結構致命的な気がするんだよね。ケンタッキーとか食べる時何飲んでんのあの人。

というか、…



持ってきたキリショーの財布の中…小銭ばっか…



いや別に札入ってればいいって訳じゃないけどなんかもう。何もかもがあいつを物語ってるよね…。はぁ。








――――…













さてと、帰りますか。

あ、 雨降ってる。



天気予報の嘘つき。ま、急いで帰れば問題ないか。









―――…





「ただいまー。」




あれ?

キリショーいない。パソコンつけっぱで何処行ったんだあの猫背すきっ歯。



一応シャワーとか覗いてみて




「おーい。」




トイレもノックしてみたり。




「もしもーし。」




いない。ま、いっか。

マック時間経つと不味くなるから先食べてよーっと。マックのポテトって何でこんな美味しいんだろう。これ凄い中毒性だよねマジ美味しい。




しばらくテレビ見てマック食べてたら外からザーーって音したからカーテンを少し開けてみる。うわ、雨すご…。

キリショー大丈夫かな。ってか帰ってくるの遅くね?


一応連絡してみるか。




―"おーい、雨大丈夫かー?"―



送信、と。




〜〜♪




って!! 何でパソコンの横から音すんだよ!! 携帯、というか正確にはiPhoneだけど!! 置いて行ってんじゃねぇよ何の為の連絡手段だよ!!!




ズズズズ―

コーラ飲み終わってマック完食。ごちそうさまでした。




その時玄関の扉が開く音がした。見たらキリショーがいて、何か無言のまま部屋の中入ってきた。




「おかえりー」

「うん――」

「何しに行ってたの?」

「ん? 別に」




うわーマックだマックだー。とか、はしゃぎながら肩のとこが少し濡れた上着を脱いでキリショーがマックをぱくぱく食べ始める。




変なやつ…




そんな風に思ってたった今キリショーが入って来た玄関を何となく見た。

大して靴も入ってない靴箱にひっかけられた2つの傘。濡れてるのが一つ。開かれた形跡がないのが一つ。




あれ、…?




それからもう一つ気付いたのが、さっき私が閉めた筈のカーテンが少しだけ開いたままになってたこと。

まるで、外の天気を少し覗き見たみたいに…





キリショーもしかして…





「ぶわッ」

「うっわ、きったなーーー!!」





私の考えを途中でぶちって途切れさせたキリショー





「爽健美茶かと思って飲んだらジンジャーエールでびっくりした…」





ずずずーと、今度は驚かないでジンジャーエールを飲みきると、またパソコンの前にいそいそと戻って行くキリショー。

猫背の背中… まったく、何度言っても直らないんだから。





「おーい、鬼龍院さーん?」





呼んでもいつもと同じで別に振り返ってくれる訳じゃない、もう慣れたもんだけどさ。

でもいいの…。私分かっちゃったから。





「うっわ…、ちょっと!!」

「キリショー大好き!」





後ろから突然抱きついた私にわたわた慌てるキリショー。

だからって離してなんかあげないよ。







不器用な所も全部全部、









「ありがとー、キリショー」

「…?――何のこと?」

「なんでもなーーい」







私の大好きなキリショーの一部だから。














― 雨が降ったら猫がいなくなった ―









どうやら、誰かさんを迎えに行ったみたいだ。





FIN



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