ゴールデンボンバー

□塀の上の猫は怖さで震えていた
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―ずっと着いてきてな―







ライブの最後にあいつが言った言葉に、私は頭を強く叩かれたような、そんな衝撃を受けていた。

声援で掻き消されて、何人のファンがその言葉を聞いていたかは分からない。もしかしたら会場にいたファンの誰一人、その言葉を聞きとれていなかったかもしれない。





研二さんがあいつを小突いた。きっと研二さんは、"何言ってんだよ"そうあいつに声をかけたんだろう。私もステージの上にいたなら同じ言葉を、研二さんみたいに優しくではなくてその大きな頭をぶったたく勢いで、殴って言っていたかもしれない。





永遠に、ずっと、その言葉の儚さを、あいつは誰よりも知っているはずだ。ずっと応援するだとか、一生着いていくだとか、実際、そんなことをいうファンの方が案外簡単にファンをやめるものだ。それが悪いだとかそういうことではなくて、世界はそう言う節理の下回っている。

人は、上へ行けばいく程、下を見ることをしなくなる。その高さに怖くなって?落ちて行く様を想像するのが嫌になって?きっと、どちらも理由なんだ。あいつはいつだって、自分の足元をしっかりと見つめてきた。自惚れないように、いつでも落ちていく覚悟を決めて、そうやって少しずつ階段を上ってきた。けれど、階段を上る手段は、自分の足だけではない。





あいつと、喜矢武さんと、歌広場さんと、研二さんがステージの裏に下がってしまってからも鳴り止まない声援





自分の足で上っているうちはまだいい方。怖いのは、この声援なんだ。自分で考えるよりも早く、脆い階段を上がらせていくこの声援。一歩ずつ一歩ずつ踏み外さないようにそうしてきたはずなのに、いつしか後ろから突然に吹き付けた風が、声援が、いつ崩れてもおかしくない、ふわふわとした雲のような階段の上へ上へ、何処までもあいつを連れて行ってしまうんだ。いつ踏み外してもおかしくない、いつ、一番下まで落ちて行くか分からない。気付いたらあいつは、そんな場所に立たされていたんだ。





「ずっとなんて…」





誰も約束できない――





私の一人言は途中で途切れた。せめて私は約束してあげないといけない気がした。

ずっと着いてきて欲しいだとかそんなことは絶対に言わないやつだったのに、きっと、今いる高さと不釣り合いなほどの脆い足元に、怖くなったんだ。せめて私だけは、約束してあげないとって、そう思った。










気付いたら、私は、














アンコールで出てきたあいつを見ることが出来ずに、
















泣いていた。





















― * 塀の上の猫は怖さで震えていた * ―












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