短編夢置き場

□さようなら、さようなら
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記憶を、失いたい。
そう思った。

記憶を失えば、アイツの気持ちも分かるだろうから。どれくらい、不安なんだろうか。
どれくらい、怖いのだろうか。


確かに俺を疑うこの状況は、仕方ない事なのかも知れない。逆だったら俺もきっと疑う。だから頭では、仕方ない、と思っている。


でも。
実際に犯人だと言われると心は辛い。重い。悲しい。信じて、欲しかった。


ずっと一番大切にしてきたはずなのに、こうなってしまったのは一体何故なんだろうか。
俺の過ちは、あの森で迫った事だったのだろうか。
それとも、俺からアイツを取り上げようと、神様は決めていたのだろうか。

神様がいるのなら、俺はきっと、神様に愛されてはいない。



アイツと同じ場所で。
同じように、落ちていけば。
同じように、記憶を失えるだろうか。
それとも、息が止まるのだろうか。



『さようなら』

それは合図みたいなもので、俺は地面を蹴った。
自分の声が崖に響いた。


(この世界にも。
世界一愛している、アイツにも。
すべての事に、さようなら。)





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